2023年3月6日

 

 「エディプス・コンプレックス」を唱えたフロイトは有名だし、社会思想史の上で権威ある人と扱われている。

 その結果、「エディプス・コンプレックス」だけでなく、「去勢コンプレックス」「口唇期、肛門期、男根期‐‐‐」といった概念により「性」をもっぱら人間の発達、性格形成の契機とするフロイトの理論についても権威あるもの、科学的と認められているものと感じさせられてきた。

 人間が「性」という要素に大きく規定されていることは否定しがたいところだが、無意識のうちに、いわば骨の髄まで、自分が「性」に支配されているという指摘には違和感、おぞましさを感じてきた人も多いことだろうと思う。

 

 上に挙げたフロイトのうち立てた理論、諸概念は、ことごとく、実証されず、学界では否定されたと考えていいということをまずは報告しておきたい。

 フロイトの理論によってもたらされた違和感、おぞましさは不用であり、廃棄してしまえばいいようだ。

 

 人間は、生まれたばかりの状態は動物的な存在だが、生育段階で次第に人間社会のルールを学び、動物的段階のストレートな欲望を抑えて人間となっていく。

 その抑制された欲望は心の中に潜在し続け、その後の人生に影響を及ぼし、たまには顕在化する。

 また、感知する外部からのばらばらな情報を一つの世界として統合するという能力を人間は持っているが、その統合原理が成長とともに変化していく。

 これらの事実をフロイトはあまりにも「性」的要素で説明しようとしすぎたのである。

 ややフロイトを弁護すれば、フロイトの理論はその「物語」の効果によって実際の精神病の治療に効果があったらしく、それゆえフロイトは自説が正しいと信じたようだ。

 それだけ「性」についての関心に支配され、精神に異常をきたす人が多いということであったのだ。

 

 そもそもフロイトの理論などナンセンスという立場の人には関係のない話だが、フロイトによる無意識の発見という貢献を評価するためか、「エディプス・コンプレックス」に連なる理論がすでに否定されていることは十分に知らされていないように思える。被害者もいるのではなかろうか?