2022年11月26日
年内に行われるという安保関連3文書改定に向けた政府、自民党、公明党の間の意見調整が進んでいる。
報道によれば、そのなかで「存立危機事態における敵基地攻撃能力の保有」が議論になっている。
本日(26日(土))の朝日朝刊によれば、「政府関係者は「『存立危機事態で敵基地攻撃はしない』と米国には説明できない。日米同盟に悪影響を与える」と、除外には否定的だ。25日の協議でも議論になったが、公明は「具体的にどういうケースで必要なのか」と問いかけたものの、政府の回答は持ち越しになった。」とのことである。
現行法上(大きな問題をはらみつつ)、我が国の武力行使は「武力攻撃事態」(外部からの我が国への侵攻)と「存立危機事態」(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かすこととなる事態)の2つの場合が考えられる。
公明党はすでに「武力攻撃事態」への対応としての敵基地攻撃能力の保有については了承の方向であり、この記事は政府側が「存立危機事態」における敵基地攻撃能力の保有までをも公明党に持ち出していることを示していると考えられる。
「武力攻撃事態」への対応としての敵基地攻撃能力の保有だけでも、これまでの我が国の防衛政策の基本的変更となるものである。
ミサイル迎撃能力が不十分だから発射前に敵基地にあるミサイルを叩く必要があるというような単純な理由でその採用を決定するような簡単な問題ではない。
しかし、それに加えて、「存立危機事態」への対応として敵基地攻撃能力の保有を考えるということになれば、問題はさらに質的な変化と飛躍的な拡大をすることになる。
そもそも日米同盟を外交の基軸としている現状において、「存立危機事態」、すなわち「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が我が国の存立を脅かすこととなる事態」として具体的に考えられるのは、唯一、我が国が期待しているアメリカの核抑止力及びミサイル防衛網(以下「アメリカによる核ミサイル日本防衛力」という。)が国際的な緊張が高まる状況にもかかわらず失われる事態である。(法制定時、「存立危機事態」として様々なケースが議論されたが、一つとして確定したものはなかった。)
この「存立危機事態」への対応として、「我が国の存立を脅かすこととなる他国に対する武力攻撃」を排除するために必要な武力行使が法律上認められている。
具体的には「アメリカによる核ミサイル日本防衛力」を脅かすこととなるアメリカに対する武力攻撃に対抗する日本の自衛隊による軍事作戦の実施ということになる。
すなわち、「存立危機事態」への対応として敵基地を攻撃するということは、日本に向いたミサイルだけでなく、中国、ロシアにあるアメリカに向いたミサイルを破壊する軍事行動を自衛隊がとるということを意味することになる。(政府案ではミサイルの破壊の内容に敵国の政府中枢にある発射ボタンを含んでいる。なお北朝鮮のミサイルはアメリカ、韓国の対応で十分であり、日本の攻撃対象ではなかろう。)
以上によれば、年末の安保関連3文書において日本は中国本土、極東ロシアの対米核ミサイル基地及び政府中枢への攻撃能力の整備に新たに着手することを宣言することになる。
理屈をいかにつけようとも、これまでの専守防衛の看板が無効化することは否定しがたく、中ロのみならずアジア各国からその攻撃的性格を疑われることになるだろう。
また、アメリカからの限りなき日本側の負担拡大要求を呼ぶものとなるであろう。
ただで済む問題ではない。政府与党内でごそごそやっていていい問題ではない。直ちに国民的議論が展開されなければならない。