2022年9月9日

 

 本日朝、NHKラジオ「ビジネス展望」で、現時点で考えておくべき国際情勢として寺島実郎氏(日本総合研究所会長)の話があり、注目すべき地域として中南米があげられた。

 ウクライナ情勢を受けて米日欧の「民主主義グループ」と中ロの「専制主義グループ」の対立といった構図で国際情勢を見がちであるが、それは単純にすぎる見方だとするのが寺島氏である。

 寺島氏は、ロシア制裁に簡単には参加しない開発途上国が多いことに着目すべきとし、特にアフリカを注目すべき地域とし、アフリカに並んで中南米をあげたのである。

 

 中南米は一握りの大金持ちと大多数の貧困大衆という所得分配の不平等が顕著であり、安定した中産階級の不在により政治は常に不安定な状態におかれている。

 その中南米は「アメリカの裏庭」と呼ばれ、かねてより、アメリカには中南米を自分のテリトリーとする意識がある。

 その意識からアメリカは中南米諸国の内政に露骨に干渉してきた。

 反米社会主義政権が登場したと見るや、金融・貿易等の経済制裁、反政府勢力に対する軍事支援、CIAによる秘密工作等を展開してきたのであり、チリのアジェンデ政権へのクーデター・ピノチェト独裁政権支援、ニカラグアのサンディニスタ政権に対する右派ゲリラ支援が有名なところであり、明らかな国際法違反行為として1983年にグレナダ、1989年にパナマに直接的な軍事侵攻が行われている。

 アメリカは中南米の現状維持を図ることを政策の基本とし、結果として右派・富裕層側に味方する政策をとってきた。

 左派・社会主義側に政策の未熟があり、そこにアメリカの介入を呼ぶスキがあったことは紛れもなき事実であるが、アメリカは貧困大衆とは対立することとなる政策をとってきたのである。

 

 そのアメリカがアフガニスタン撤退、ウクライナへの直接介入忌避、トランプの「アメリカ・ファースト」にみられるように、経済的衰退を背景にして世界的な軍事力の展開を縮小する方向となっている。

 一方、中南米における最近の事態としては、親米政権が続いてきたコロンビアで今年になって左派政権がはじめて成立し、10月2日に大統領選が行われるブラジルでは左派の候補の優位が伝えられ、右派クーデターが懸念される事態となっている。

 果たしてアメリカは離れつつあるようにみえる中南米に対してどんな態度で臨むのであろうか?

 従来どおり「裏庭」での左派政権を許さず干渉することになるだろうか、それともある程度のところまでは放置することにするだろうか?

 それ次第で、ウクライナ情勢も影響を受けるし、インド・太平洋政策、台湾政策等からなる対中国政策も影響を受けるし、当然日本も大きな影響を受けることになる。

 そして、そのことがわかっている中国は中南米に対しての働きかけをかなり強めているのである。

 

 中南米の動き、それへのアメリカの対応、それがアメリカの世界政策全体を象徴することになる、これからのアメリカの世界政策全体を読むキーともなる。

 寺島実郎氏の指摘、誠に的確である。