2022年3月7日
今回のウクライナ事態は、帝国日本の朝鮮、満州政策を顧みるにあたっての貴重な参考事例という一面がある。
言うまでもなく、今回のロシアが当時の帝国日本、ウクライナが朝鮮、満州にあたる。
例えば、今回ロシアはウクライナに対して「中立化」を求め、その旨をウクライナ憲法に規定することを求めている。
一体、どんな条文が考えられるのか、ちょっと想像することができないが、いずれにしろ仮にウクライナ側がこれを受諾した場合、合意内容はロシア・ウクライナ間で条約化されることになるであろう。
この条約は有効であろうか?成立を認められるだろうか?
この問題についての答は、1910年の帝国日本の軍事支配下で締結された日韓併合条約の有効性の検討にも重要な示唆を与えることになる。
脅迫により意志の自由が制約されていた場合の契約の有効・無効の問題の条約版である。
ロシア・ウクライナ間の条約締結があった場合については、国際世論も日本の国内世論も一致して条約は無効であると判断するものと予想される。
この無効であるとの判断の論理からすると日韓併合条約の有効性はどのように判断されることになるであろうか?
我が国は一貫して日韓併合条約の締結時における有効を主張してきており、韓国はこれに対してそもそもの無効を主張している。
これが現在の日韓の歴史問題での対立の根っことなっている。
1965年日韓基本条約では「(併合条約は)もはや無効であることが確認される。」として、締結当初から無効なのか、締結時は有効でその後の展開で無効となったのか、両様の解釈が可能な妥協的表現となっている。
ロシア・ウクライナ間の条約を無効とし、日韓併合条約の締結時の有効を主張するのであれば、わかりやすい説明が必要であろう。
そしてその際、有効・無効の問題と正当・不当の問題をきちんと分けて、それぞれについての答を出す必要があると思われる。
(なお、アメリカのハワイ併合についても同じような問題があるのだが、その後の円満平和状態によって世間一般では忘れ去られている。)
帝国日本は自国の安全のためという理屈で韓国を併合し、満州国を建国した。
「周辺国主権制限正当論」ともいうべきもので、今回のロシアのウクライナ侵攻とまったく同じ理屈である。
理屈の共通性のため、帝国日本の対朝鮮、対満州の行動には今回のロシアのウクライナ侵略と類似の事象がさまざまに見られる。
どこが同じでどこが違うのか、比較検討することから多くの教訓を得られるものと考えられる。
特に、いわゆる「自虐史観」「東京裁判史観」を非難し、帝国日本の行動を自存自衛のためで正当とするいわゆる歴史修正主義の立場の人々にとっては、その正当化の理由と今回ロシアが自己正当化のために主張している理由との重複具合を点検してみる格好の機会を得たということができるのではないだろうか。
さて、帝国日本は各国からの経済制裁を受けた結果、それに耐え得ず、遂に真珠湾の挙に出るに至った。
今回の事態において類似の事象がそこまでに至ると、類似の現象はそこで終わる。
20世紀と21世紀の軍事技術水準、極東の小国・帝国日本と核超大国・ロシアという違いのほうが表面化してくる。
帝国日本の悲劇のレベルをはるかに超えた人類規模での悲劇を迎える。現象が異次元化する。
こんな事態をもたらしたプーチンをA級戦犯として裁くという類似現象は果たしてあるであろうか?