2021年8月29日
朝日新聞俳壇、歌壇等からの印象句、印象歌の報告、第421回です。
【俳句】
元町は・いつも夢あり・花氷 (神戸市 藤井啓子)(長谷川櫂選)
(街には「非現実」がなくてはならぬ。)
ごきぶりを・眼で追ふだけの・齢(よわい)なり
(藤沢市 寺田篤弘)(長谷川櫂選)
(今はいい製品もできている。飛び道具を使ってゴキブリと戦おう。)
何気なき・ひと言涼し・京ことば (奈良市 上田秋霜)(大串章選)
(何気ないということが大切。わざとらしく聞こえて暑苦しい時もある。)
人流と・いふ語訝(いぶか)し・夏の暮 (横浜市 穴沢秋彦)(高山れおな選)
(「人出」という立派なことばがある。誰だ勝手に「人流」などという言葉を作ったのは!「夏の暮」などとおさまっている場合ではない。)
美青年・師とし・水着の老女たち (平塚市 日下光代)(高山れおな選)
(老女たちをもっと美しく詠ってほしい。「流れるごとく・自由 水中の・老女たち」)
【短歌】
おやつ前・スーダラ節を・口遊(くちずさ)み・食堂に来る・杖をつく人
(川崎市 川上美須紀)(佐佐木幸綱選)
(自分のテーマソング、何だろうと考える。人前に登場するときは「月光仮面」のイントロだ。)
隈(くま)さんの・空席目立たぬ・椅子の色・皮肉にもコロナで・役立てり
(船橋市 佐々木美禰子)(高野公彦選)
(まるで無観客を事前想定してたのではないかと思わせられる。芸術家の直観というものだろうか?)
オリンピック・一切観ないと・前見つめ・医師は重たき・声で言い切る
(柏市 浅利早苗)(永田和宏選)
(オリンピックは死と戦う本人と関係者を冒瀆していた。それ以前に懸命に必死で生活する人々を冒瀆していた。薄汚いイベントだった。)
乗客が・いないときにも・皓皓と・列車は二輛の・灯りを運ぶ
(館林市 阿部芳夫)(永田和宏選)
(「無意味」を堂々と生きるということ、椎名麟三『美しい女』を思い出す。)