2021年8月8日

 

 我が国はハンセン病対策に大きな誤りを犯していた。

 科学的根拠の無いことが明らかになった後においても、らい病予防法を廃止することなく、患者に対する強制隔離措置を継続することによって、国家が重大な人権の制限、差別を引き起こしていたのである。

 今さら言うまでもなく、関連の衆参国会決議、国家損害賠償のための特別法の制定等々で国としてその反省と二度と同じ事を繰り返さない旨を表明している。

 しかるに、同じような誤りを、現在只今、我が国は精神病患者に対して行っていることが明らかになった。

 

 7月31日(土)に放映のNHK「ETV特集・ドキュメント精神科病院×新型コロナ」で放映された内容は極めてショッキングなものであった。

 精神病患者の一般の疾病に対する医療体制が不十分とされる中、我が国の精神科病院の頂点に立つと思われる都立松沢病院は、一般民間精神科病院で発生した新型コロナ・クラスターの患者の治療を実施することを決断する。

 続々と新型コロナに感染した精神病患者が松沢病院に運び込まれてくる。そこで松沢病院の医師たちは患者たちがそれまでどのような処遇を受けてきたのかをありありと知ることになるのである。

 床ずれ放置による壊死の発生、排泄処理の放置‐‐‐‐。そして、治療なき長期強制収容という実態。回復・退院を望まない患者の家族。

 松沢病院の医師たちからは、新型コロナの治療が終わった患者を元の精神科病院に戻すべきではないのではないかという問題提起が生じる。

 

 我が国の精神病患者の強制収容の多さは世界的に見て異常である。

 軽度の、社会復帰が可能な者が、収容されたままで病状悪化、生きる意欲の喪失、人格崩壊を招いていると思われる。

 科学的合理性を欠いた精神病患者への対応が、国家を上げて実施されていると感じられる。

 精神病患者に犠牲を強いることによって、精神病患者の犠牲などかまうものかという判断によって、安上りの方策が選択されていると思われる。

 問題のレベルは、ハンセン病対応の二の舞いならず、このような悪質性においてハンセン病対応を超えているとすら感じられる。

 

 もとより筆者は専門家ではない。具体的方策を持ち合わせているわけではない。

 しかし、資金投入、人材投入の不十分さが問題の根源にあると思う。

 政府は外交防衛問題に当って、「民主主義、基本的人権という基本的価値観の共有云々」などと言う。

 ハンセン病対応を大いに反省したはずの我が国がこのような人権侵害を放置しておいてよくぞそんなセリフを吐けるものだと憤りを感じる。

 今さらながら、基本的価値観などどこ吹く風で、莫大な資金をオリンピックという一時のお祭りに投じる為政者の、また日本国民の低劣さを呪わざるをえない。