2021年5月17日

 

 「ローンレンジャー・白馬童子に・憧れき・白馬が遂に・桜花賞勝つ」

 5月16日(日)朝日新聞歌壇に掲載された短歌である。

 この短歌は、正しいと言えば正しいのだが、まちがった認識に基づいており、まちがっていると言えばまちがっているのである。

 そこのところを解説しておきたい。

 

 白い毛のサラブレッドには3つの種類がある。

 多い順に並べると、「芦毛」の馬、「白毛」の馬、アルビーノの馬となる。

 「毛色」は競走馬の血統書の記載項目となっており、「毛色」には8種類ある。

 「芦毛」と「白毛」はそれぞれ、そのうちの1つである。

 アルビーノは遺伝子異常により発生するもので、他の動物でもアルビーノがいる。このアルビーノは血統書に登録される「毛色」ではない。

 

 「芦毛」は、生れた時から真っ白ではない。年齢とともに白くなっていく。いつ白くなるかは馬ごとに異なり、けっこう大きな差がある。

 ほとんどの白馬はこの「芦毛」の馬である。ローンレンジャーの馬も、白馬童子の馬も、この「芦毛」の馬にちがいない。

 「白毛」は、生れた時から真っ白である。その比率は、「芦毛」が競走馬全体の7%であるのに対し、「白毛」は0.04%以下であり、ごくごく例外的存在である。

 今回の桜花賞で優勝した「ソダシ」はこの例外的な存在の「白毛」なのである。

 

 「白毛」のGⅠでの優勝は今回の桜花賞が初めてである。

 しかし、「芦毛」のGⅠでの優勝は何例もある。したがって、白馬のGⅠの優勝も何例もある。

 ここで話が面倒となる。

 桜花賞での「芦毛」の優勝は、1994年「オグリローマン」の1例があり、この1例のみである。

 しかし、「オグリローマン」は、年齢を重ねてその後白馬となったが、桜花賞の時点ではまだ白くはなかった。

 したがって、桜花賞での白馬の優勝は、今回の「白毛」の「ソダシ」が初めてということになるのである。

 仮に「オグリローマン」が桜花賞の時点ですでに白くなっていたら、「ソダシ」は初の白馬の優勝ということにはならなかったことになる。

 

 かくして、冒頭掲載短歌の「白馬が遂に桜花賞勝つ」というのは正しいのだが、今回の「ソダシ」の快挙は、白馬がGⅠに勝ったというところではなくて、「白毛」がGⅠに勝ったというところに歴史上の大きな価値があるのである。

 「芦毛」にまたがっていたローンレンジャーと白馬童子は、すでにGⅠで祝うべき時が過去にあったのである。