2021年5月12日
内閣官房参与、元財務官僚、日銀の財政ファイナンス積極論者、スガ首相に近い関係の高橋洋一嘉悦大教授が、新型コロナ感染状況について、五輪との関係で、日本の状況は「さざ波」とツイッターに投稿して話題になっている。どういう関係だか、橋下徹も弁護的立場で参戦している。
本稿はこの問題を正面から取り上げるものではない。事態を「さざ波」とする評価が、筆者に自衛隊海外派兵の場合の国内での反応を連想させたのだ。
現行憲法9条では集団的自衛権に基づく自衛隊の海外派兵の余地は事実上は存在しない。
(新安保法制において「存立危機事態(ある国によるある国への攻撃が我が国の存立を脅かす事態)」での海外派兵があり得ることになっているが、現実にそのような事態は想定しがたい。)
その憲法9条が改正されれば、自衛隊の海外派兵が可能となる。アメリカからの要請があった場合、たとえ日本への直接的な影響が想定されない地域での紛争であっても、憲法の制約を失った日本政府は断ることができないであろう。
派遣先は中東、アフリカなどが考えられる。まずは小規模な派兵から始まるであろう。これまでの後方支援とは異なり、自衛隊は前線にも配置されることになるであろう。死者、負傷者の発生は不可避である。
その時、遠い、利害関係も不明確な地域に派遣された自衛隊員の戦死、戦傷に対して、当初はマスコミも大きく取り上げるであろうが、それが常態化してくれば、当事者感の稀薄な高橋洋一的な立場の人は、他国の被害と比べて単に数字が小さければ、日本の状況は「さざ波」と評価するであろう。当事者感が希薄なことにおいて同様である多くの日本国民がこの評価に同調するであろう。
そんな日本の国からの命令で、その参戦が日本の国にとっていかなる意味があるのかもよく分からないまま、砂漠で、ジャングルで、市街戦で、銃弾を受け、爆弾で吹き飛ばされ、捕まって拷問を受け、若い命を失っていく自衛隊の諸君、負傷してのたうち回る自衛隊の諸君、そしてその遺族、家族が気の毒でならない。
「さざ波」という発想を持つような、御都合主義の為政者に、海外派兵の判断をゆだねることとなる憲法改正は決して許してはならない。
(なお、五輪については、新型コロナとは関係なく、誘致の時点からそもそも大反対であること、高橋洋一の主張する経済政策を正当化する「現代金融理論」が誤りであること、いずれも別に論じているのでここでは触れない。)