2021年1月5日
NHK・Eテレの「100分de名著」で『マルクスの資本論』が昨日(1月4日)始まった。
かつてない多くの人々が、経済学なんかに興味もない人も含めて、マルクス主義経済学に触れる機会を得ることになる。
誠に結構なことと思う。
ところで、マルクス経済学を学ぼうとしての最初のつまずきとして「労働価値説」がある。(1月4日の番組でも「労働価値」という単語が登場した。)
商品と商品との間の交換比率、すなわち価格比率、を決めるのは、その商品を生産するのに要した「労働時間」によるというのが「労働価値説」だ。(1月4日の番組ではそこまでの言及はなかった。)
しかし、一方で、商品の価格は需要と供給をバランスさせるところで決まるという「常識」があり、「労働価値説」はこれに反することになる。
ここで、「労働価値説」は「あるべき」という理念を語っているものではないか、客観的事実を語っているものではないのではないか、という疑念を生じさせる。
マルクス主義経済学は社会主義をあるべき社会とするイデオロギーであって、科学とは言えないのではないか、という評価を発生させる。
引き続くマルクス経済学の難しさも加わって、マルクス主義経済学は敬遠されてしまうことになる。
実にもったいない事態である。
価格決定についての需給バランス論と「労働価値説」の2つは、短期の価格決定を扱うか、長期の価格決定を扱うかのちがいである。
「労働価値説」は、長期の観点に立てば正しい。
ある商品が長期にわたって生産され続けているということは、その生産にたずさわっている人々の生活が長期にわたって成り立っていることを意味する。
したがって、長期では、6人の1年の労働によって生産される商品は、6人の生活を成り立たせており、2人の1年の労働によって生産される商品は2人の生活を成り立たせており、長期の価格比率は3倍ということになるのである。
「資本論」のエッセンスは、経済学の観点からは、資本主義経済の運動法則を明らかにしようというものであって、有効・有益な資本主義経済の分析である。
「100分de名著」でつまずきとなりそうなものが登場したら、また解説を試みることとしたい。