2020年7月22日
以下の議論はまったくかったるい。「かったるい議論」がお好みでない方には申し訳ない。悪いのは「かったるい議論」を筆者にさせる政府のほうであると言いたい。
政府はまたもコロナ対策に関してご都合主義で法律の運用を捻じ曲げている。
それによる直接的な損害は発生しないが、政府による違法行為であり、その違法行為を放置することは、我が国の根幹をなす法治主義が政府によってないがしろにされるのを黙認することになる。
法治主義とは、単に社会が法の網の目に蔽われていることを言うのではない。国民の権利と義務、権力の範囲と限界を法によって適切に定めること、法を立法趣旨のとおりに成文化し、立法趣旨に沿った法の運用を確保すること、そのような法が制定されるしかるべき手続きが順守されること、これらをもって法治主義というのである。さらに言えば、この法治主義の不十分性が感知された場合、不十分性の克服に向かうように社会がセットされていることも法治主義に含まれるだろう。
今回の場合の事態の本質は政府の悪意というよりは怠慢にあるとは思うが、その怠慢が生じるのは政府が国民を侮っているからであり、その点において事態は深刻である。
一事が万事ということがある。蟻の一穴ということがある。問題を指摘しておくことは、より深刻・重大な事態である権力の暴走を防止することにもなると考え、敢えて「かったるい議論」をすることにする。
報道によれば、政府は、コロナ感染防止のためのガイドラインを遵守しない接客を伴う飲食業に対して休業を要請することを決めた、その法律根拠はコロナ特措法24条9項とするとのことである。
この法律根拠を24条9項としたことが問題である。
コロナ感染防止のためのガイドラインを遵守しない接客を伴う飲食業に対して休業を要請するには、コロナ特措法の外見上は24条9項に基づく方法と45条2項に基づく方法の2つがあるように見える。45条2項では「施設管理者等に対し当該施設の使用の制限若しくは停止‐‐‐を講ずるよう要請することができる。」と要請内容が具体的に規定され、休業要請が明確に含まれているのに対し、24条9項では「新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」と要請内容が抽象的であり、休業要請を含むか否かについては明確ではない。この規定振りの違いの理由は、45条2項がコロナの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるとして緊急事態宣言が発せられるという緊迫度が高まった場合の規定であるのに対し、24条9項はコロナが発生し政府対策本部が設置された段階であって緊迫度において緊急事態宣言の前段階の場合の規定であるというところにあると考えられる。45条2項の要請を緊迫度が高まったがゆえに必要とされる特別な要請であり、それゆえに45条2項に規定されたと考えれば、その前段階の24条9項においては45条2項のような具体的な厳しい内容の要請は含まれないと解釈されるべきであろう。
したがって、今回の24条9項を根拠とする協力要請は一定の限界があると考えるべきであり、45条2項の根拠を本来必要とするような休業要請は違法と考えられるのである。
ところで、45条2項の要請については、同条3項、4項に要請に応じないときの「指示」「公表」という要請の実施促進のための規定が置かれている。24条9項の要請の場合は、該当する規定はなく、要請に応じない場合の「指示」「公表」という手段は許されていない。「指示」「公表」までの強い措置を考えてはいないために45条2項を根拠とはせず、24条9項を根拠とする措置としたのだというような弁明が仮にあったとしたら、それは詭弁というほかはないだろう。要請に応じない者に対する「指示」「公表」をなぜ予定しないのかという疑問に答えられるとは到底考えられない。
45条2項を避け24条9項を根拠とする理由として唯一考えられるのは、再度の緊急事態宣言を何としても避けたいということなのだが、その理由がいったい何なのかはまったくわからない。素直に東京都等を対象にした緊急事態宣言をして、その上で45条2項により休業要請をすれば何ら問題はないのである。
いずれにしろ、以上のようなことから24条9項に基づく休業要請は違法と断じざるを得ない。百歩譲っても政府の怠慢と断じざるを得ない。