2020年7月11日
よしなしごとながら、偶然が重なる感激があったので、御報告させていただきます。
引越しの時にどこかにしまってしまってわからなくなったものがいろいろあると思われ、なくなっていることさえ気がつかないものもあるという気がするのだが、そんな中で探してみても見つからず、明らかになくなったと考えざるをえないものとして雑誌「東京人」があった。2017年2月号・特集「平成の浪曲時代がやって来た!」である。なじみの浪曲師がずらっと紹介されているのみならず(今は亡き港家小柳が登場しないのが遺憾だが)、浅草・木馬亭周辺の関係者贔屓のお店など浪曲関連情報満載で、さし絵はイソノヨウコさん(新内の柳家小春さんの別名)のものがたっぷりという、筆者としては思い入れのある一冊である。これが探しに探してもまったく見つからなくなっていた。
さて、昨日(7月10日(金))、本棚をぼんやり眺めていたら、イラストレーター矢吹申彦さんの作品集2冊が並んでいた。2005年10月発行なのに9月28日付けの矢吹さんのサインがある「画報 猫づくし」と2006年世田谷美術館発行の「クリエイターズ」である。この6月21日から朝日新聞俳壇歌壇に矢吹申彦さんのさし絵が掲載されるようになり、矢吹さんを知らない者に矢吹さんのお仕事を知らせようと取り出して、自分もパラパラとページをめくっていった。すると「クリエイターズ」のほうに矢吹さんによる雑誌「東京人」の表紙が48枚も掲載されていたのである。これによって、忘れかけていた、なくなったと思われる浪曲特集の「東京人」を思い出した。(なお、「クリエイターズ」には伊集院静の寄稿があり、そこには矢吹氏が伊集院の妻・女優・夏目雅子を可愛がり、俳句を教え、不治の病に陥った時に病室に飾る絵をオリジナルに描き上げて贈り、その絵をめぐって夫妻の間で会話がなされるなど、最後まで飾られていたというエピソードが書かれている。)
そして、「東京人」を思い出すにはとどまらず、なんと、その2冊を本棚に戻そうとしたとき、本棚の同じ段のいちばん隅に、浪曲特集の「東京人」が挟み込まれているのを発見したのである。
要するに、浪曲特集の「東京人」は、大事なものとして、引越しとは関係なく、引越しに大きく先立つ時期に、特別に送り出されて、その本棚に保存されていたのであった。
偶然はここに止まらない。久しぶりに再会することができたその「東京人」をながめていると、「対談 浪曲いいねぇ(高田文夫×玉川奈々福)」のページに、対談で言及された本「小沢昭一がめぐる寄席の世界」(ちくま文庫)の表紙の写真が出ていた。その表紙を見て驚いた。これは矢吹さんの描いたものにちがいないと思い、よーく目を近づけてみると右下隅に「nov.」、まさしく矢吹さんの描いたものだったのである。
そしてさらに、ムーンライダーズ45周年で矢吹さんが描いたリーダー鈴木慶一の姿が焼き付けられているコーヒーカップが最近見当たらないことに気づき、引っ越し後2月たっても長屋にほうり込んで開けていない段ボール箱の中からそのコーヒーカップも見つけることができたのであった。
その日、週初めに眼科で処方された緑内障の目薬が探しても探しても見つからないということがあった。指摘をされて見つかった。在庫たっぷりなのでその目薬を使い始めるのは当分先と、冷蔵庫に保存したことを失念してしまっていたのである。
また、降ったりやんだりで、さしたりささなかったりの天気のため、高級ワンタッチ傘が行方不明になった。いくつかの出かけ先を忘れた場所として考えたのであったが、結局コーヒーカップを探しに入った長屋の中にその傘はあった。
出てきたり、なくなったり、いろいろと忙しい、認知症懸念がわずかに強まった1日であった。