2020年2月2日
朝日新聞俳壇、歌壇等からの印象句、印象歌の報告、第340回です。
【俳句】
佳(よ)き葡萄(ぶどう)・挿し木に挑む・春隣り
(美作市 石田晴彦)(長谷川櫂選)
(実はこの句は選者の「評」で選んだ。「葡萄をはじめて栽培した人のように。じつは誰もが人類史最初の人。」。この句から「人類史」が登場する驚き。)
寒の海・涙の色の・波つぎつぎ (東京都 竹内宗一郎)(大串章選)
(押し寄せる波に言葉が出ない。)
灯油売り・「雪山讃歌」・流し来る (平塚市 日下光代)(高山れおな選)
(選曲理由を推測すれば、かすかなおかしみ。作為を感じさせない秀句。)
【短歌】
ひとりひとつの・たましひ灯す・いのちだろ・甲なんて呼ぶな・乙なんて呼ぶな
(東村山市 さいとうすみこ)(佐佐木幸綱選)
(この一首からの問題意識で以下を選んだ。人を人と定義する「たましひ」とは何か?)
チンパンジー・学者が語る・人のみが・唯一希望を・持つ生きものと
(坂戸市 山崎波浪)(佐佐木幸綱選)
(「その『たましひ』は希望を持つ」、「希望」を広く考えれば、確かに定義となり得る。)
ステージは・吾と異なれど・同じガン・病める檀徒と・相哀れめり
(三原市 岡田独甫)(馬場あき子選)
(ガンに限定せず、「その『たましひ』は『老病死』を相哀れむ」を定義とし得る。相哀れむ対象に『生の無意味さ』も加わる。)
病む妻の・暴言に耐える・日々なりき・病気が言わせる・病気が言わせる
(さいたま市 石塚義夫)(永田和宏選)
(心病んでこちらの人格を否定されようと、「希望」を宿す「たましひ」、「哀れむ」対象を共有する「たましひ」が妻に感じられれば‐‐‐耐え得る、か。)