2019年12月1日
朝日新聞俳壇、歌壇等からの印象句、印象歌の報告、第331回です。
【俳句】
この信号・渡れば駅舎・夕時雨 (福山市 広川良子)(稲畑汀子選)
(時雨の句が多くあった中でさりげなく時雨を詠んで雰囲気があった句を選んだ。)
茶の花の・中を幼き・頃の道 (袋井市 勝田敏勝)(長谷川櫂選)
(「幼き頃の道」だけで胸に迫るものがある。ましてそれが「花の中」とは!)
桑枯れて・ここにグンゼの・生まれけり (福知山市 森井敏行)(長谷川櫂選)
(グンゼとは京都府何鹿郡の郡の産業振興を目的に設立された製糸企業。郡の目的、すなわち「郡是」なり。)
ラグビーを・しさうな男・前を行く
(西宮市 高崎なほみ)(長谷川櫂選)(高山れおな選)
(当然、「男前」が意識されている。ラグビーは女性の野性を刺激するようだ。)
憂国の・思ひさまざま・憂国忌 (静岡市 安藤勝志)(大串章選)
(三島自身がどのように思っているのか、それが何より問題だ。)
神殿へ・万歳の民・みなマスク (さいたま市 関根道豊)(高山れおな選)
(その「不敬」がせめてもの救いだ。)
門司港は・烈風なりき・開戦日 (清瀬市 中村格)(高山れおな選)
(門司港は大陸侵略の基地・軍港であったことが想起される。)
【短歌】
娑婆近し・金無しコネ無し・小指無し・窓を開ければ・秋風寒し
(広島市 吉島覚)(馬場あき子選)
(小指を詰めた度胸があると言っても慰めにはならないか。)
池に顔・出して浮きつつ・秋空を・だらんと仰ぐ・垂直の亀
(東京都 豊万里)(永田和宏選)
(動物に託して自分を語る。)
残る日々・至り難しと・思へども・井筒俊彦・読みゆくこととす
(下関市 依田三春)
(いい選択だ。)