2019年3月17日
朝日新聞俳壇、歌壇等からの印象句、印象歌の報告、第294回です。
【俳句】
鬼火寄り合ふ・取り壊す日の・仮設 (大船渡市 桃心地)(高山れおな選)
(なるべく5・7・5で「・」を打つことにしているのだが、この句は無理に打たないことにした。
鬼火も寄りやすいところと寄りにくいところがある。「記憶の密度」がその指標。)
春の宵・白い山から・白い月 (青森市 浅田剛)(高山れおな選)
(春なお雪が残る山。岩木山でしょう。)
三月十日・言問橋の・忌なりけり (越谷市 奥名房子)(高山れおな選)
(毎年のことながら、この日の空襲で亡くなった祖母、おば、おじにあたる人を、会ったことはないのだが、思う。)
老人と・朝刊を読む・春の蠅 (久喜市 三餘正孝)(高山れおな選)
(越冬明けの蠅かと思えばやさしい気持ちがわく。)
春光や・老いの手もはや・隠せざる (熊本市 山澄陽子)(稲畑汀子選)
(暖かくなって手も表に出てくることが多くなる。化粧のしようもない。)
ふらここ漕ぎ・古き映画を・思ひ出す (東京都 吉田かずや)(大串章選)
(「生きる」の志村喬。たまにはぶらんこに乗ってみようか。ケツが入らないかもね。)
【短歌】
先生の・最終講義は・被差別の・民作られし・史実であった
(赤磐市 黒岩基之子) (永田和宏選)
(社会的に基本的人権が踏みにじられていた歴史、社会を学ぶことなく基本的人権を学ぶことはできない。帝国主義による植民地支配についてもそうだ。)
節分の・話を聞きて・ガイコクの・児童は鬼に・心留めたり
(町田市 上田真司)(馬場あき子選)
(指摘されてドキッとする。「福」の反対語を「鬼」とするのは、単に象徴ではなく、具体的歴史的背景があるのだろう。)
畑焼いて・春来るを待つ・頬被り・野面を渡る・風寒くして
(明石市 高野有)(佐佐木幸綱選)
(何気ない一風景のようだが、「頬被り」というのはなくなってきているのではないだろうか。)
まんさくの・線香花火の・ごとき花・一つ一つが・雨の玉吊る
(米沢市 草刈邦雄)(高野公彦選)
(このような宇宙観、世界観が仏教にあったはず。)