2018年4月5日
意図的か意図せざるものか、わからない。しかし、9条改正について国民を誤った方向に誘導しかねないという懸念をもった。4日(水)夜9時のNHK「ニュースウオッチ9」である。
従来の政府憲法解釈による自衛隊合憲論と現在の自民党9条改正案(1つにまとまってはいないと思うのだが)との違いは、「必要最小限」という限定が前者にはあり、後者にはないというところにあるというのが、そこでの説明であった。
その説明から引き出される9条改正の論点は、「必要最小限」という制約をかけて現在の我が国軍備水準決定の考え方を維持するか、「必要最小限」という制約を外して軍備拡大の方向に行くかということになる。
こうなると国民世論は、必要以上の軍備は必要ないという単純な発想から、前者を圧倒的に支持するであろうことは目に見えている。
ということは、自民党9条改正案(なるもの)に「必要最小限」という限定を付ければ、9条改正はそれでオーケーということになってしまう。それで9条改正が実現するという判断がなされれば、自民党は容易に「必要最小限」という条件を付けるであろう。「必要最小限」という限定は自民党にとって痛くもかゆくもないからである。
9条に「必要最小限」という条件が付くことは我が国の軍備水準を制約する上で「屁の突っ張り」にもならない。
「必要最小限」という条件下にあるはずの現在でも、艦艇の空母化、敵地上陸可能部隊の整備、戦闘機の航続距離の延長、敵基地攻撃能力の獲得等々軍備拡大方向の提案は枚挙にいとまがない。「必要最小限」とは国民が誤解するところの「現状維持」を意味するものではいささかもないのである。
また、「必要最小限」というのは目的を何に設定するかによっていくらでもその実質的内容は変わり得る。
集団的自衛権の名のもとでの海外派兵を「我が国の防衛」という名目で憲法上許容すれば、「必要最小限」という制約はまったく無いに等しく、許容される軍備は青天井と言わなければならない。
要するに「必要最小限」という制約を付けるかどうかは、そもそもまったく9条改正の論点ではない。これまでの通信で再三報告しているように、9条改正の論点は、実質的に「他国防衛」であり、我が国が戦争に巻き込まれるおそれがある「集団的自衛権」を認めるか否かである。この点こそ、我が国のあり方を根本的に規定することになるのであって、国民に問うべき内容である。国民にこの論点を明らかにすることなく憲法改正について国民投票がなされるようなことは決してあってはならない。実質的な意味において国民の判断がなされていない憲法改正となれば、憲法そのものの価値が揺らぐことになる。あとからそんな解釈が有り得たことに気づくような、種も仕掛けもあるような憲法は憲法たる資格を有しない。
論点を的確に国民に示し、国民の判断を促すこと、これこそマスコミの重要な役割である。真逆の方向を向いたNHKの猛省を促したい。