2017年11月19日

 

 文在寅(ムン・ジェイン)政権になってから慰安婦に関する韓国の態度が一変していることは皆さんご承知のとおりである。

 慰安婦問題に関するパク時代の日韓合意(2015年12月28日の日本の岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世外交部長による外相会談後に行われた共同記者発表)を批判して政権についたという性格がこの問題に関するムン政権の政策選択の自由度を狭めており、またムン政権は公約を具体的なかたちにして提示することを迫られているというのが韓国の態度一変の背景である。

 しかし、そもそも基礎となるべき慰安婦問題に関する事実認識が韓国内において曖昧なまま日韓合意がなされたということに今日の事態の基本的原因があるということはあらためて確認しておく必要がある。

 筆者に具体的情報があるわけではないが、パク政権内部においては慰安婦の強制連行による調達はなかったという認識は形成されていた、しかしその認識を国民レベルにするために人々を説得しようという力は基盤脆弱なパク政権にはなかったというのが実情だったのではないかと考えている。(この考えは、少女像に関して「可能な対応方向」「適切に解決するよう努力する」という言葉にとどめた日韓合意の文言によって形成された。この文言を受け入れた日本政府の認識でもあったはずだということになる。すなわち、日韓合意における韓国側表明は「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。」である。)

 日本政府は韓国において新たな措置がとられるたびに抗議しており、それは国対国の関係での合意に反するという抗議として正当性はあるものの、抗議するだけで先々の展望がない、むしろ関係をさらに悪化させている、という意味では外交的怠惰であると批判せざるを得ない。

 

 

 慰安婦問題を収めていこうとせず積極的に問題化しようというムン政権に対して日本はどのような態度をとるのがいいのであろうか?筆者の考えは以下のとおりである。

 

 

1 日韓合意に反するという抗議の態度はとらない。

 (抗議だけでは対立をあおるだけで生産的でない。もともと100%の履行はできないという認識だったのでもある。)

 

 

2 ムン政権の諸措置に対して、3の点を強く注意喚起しつつ、日本に対し戦前の誤りへの反省を迫るものとして評価するスタンスをとる。

 (日韓合意に日本側表明として次の文章があり、そのことを日本の国民に想起するきっかけとして評価するというスタンスである。

  「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。」)

 

 

3 軍、官憲による強制連行はなかったにもかかわらず韓国内に根強い事実認識の誤りがあることを強く指摘する。

 (放置され続けることによっては決して解決しない両国の事実認識の隔たりはこのことによって少しずつでも改善していくであろう。)