2017年3月6日

 

 

 朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第191回です。

 

 

【俳句】

 

 

春や戦後・父の工場の・原動機(長崎県小値賀町 中上庄一郎)(長谷川櫂選)

 

 

(当時はけたたましく、詩情などなかったろう原動機、今やはるかな、おだやかな、そして繁栄の記憶となる。)

 

 

しゃぼん玉・ふつとひと吹き・孫悟空 (越谷市 伊藤とし昭)(長谷川櫂選)

 

 

(小さな不思議から展開する大きな物語。これがある人生の豊かさ。)

 

 

風車・持てば大人も・走り出す (東京都 岡村一道)(大串章選)

 

 

(雀百まで、というとおり、失われないものがある。)

 

 

治りても・治らぬやうな・春の風邪 (山形市 遠藤正夫)(稲畑汀子選)

 

 

(ぼんやり眠いような、体がまだ慣れぬような、春という季節そのものがやや病的なのだ。)

 

 

困ります・車の前の・雪だるま (鹿児島市 青野迦葉)(稲畑汀子選)

 

 

(雪の少ない国での雪だからこそ起きる、ほほ笑ましい事件。)

 

 

【短歌】

 

 

 迷ふなら・弱きに立てと・習ひしが・強きに従ふ・この国の風 

(島田市 水辺あお)(高野公彦選)

 

 

(自分は恵まれているほうだという自覚の不十分がこのような事態を呼んでいる。右肩下がりがその背景。)

 

 

 苦しくない・かと問う我に・寒くはないかと・答えて老母(はは)は・旅立てり 

(佐野市 阿部忠雄)(馬場あき子選)

 

 

(交換されているメッセージは交換されている言葉の幾層倍という典型例。「・」を打つのに苦慮した。)

 

 

「すみちゃんが・来てくれたんか」・母の言う・ずっと「すみこ」と・呼んできたのに

 (神戸市 田崎澄子)(佐佐木幸綱選)

 

 

(力関係の変化、うれしくもあり、悲しくもあり。)