2016年6月27日


 朝日新聞俳壇・歌壇からの印象句、印象歌の報告、第156回です。


【俳句】


骨格も・人格も曲げ・老いの梅雨 (福岡市 伊佐利子)(金子兜太選)


(老いの自覚のうち人格が変わってしまったことの自覚がもっとも悲しい。無自覚も恥ずかしいが……)


下野(しもつけ)は・やはり毛の國・麦の秋 (下野市 久保田清)(金子兜太選)


(現実は「やはり」などと言ってはいられない危機にある。「やはり」が「かつて」になりかねない。)


来年も・この手で辣韭(らっきょう)・漬けること (京都府大山崎町 重田和子)(長谷川櫂選)


(生の営みのひとつひとつのいとおしさ。それを感じながら生きられるということは、ある意味では幸せだ。)


【短歌】


笑わなく・なった夫を・つれて行く・末廣亭で・あなたはわらう 

(摂津市 内山豊子)(高野公彦選)


(他者を意識しないゆえ笑えるのだ。笑えなくなったのは不機嫌の演出が固定したのだ。)


悲しきは・汚れてしまった・ことばたち・「ていねいな説明」・「あたらしい判断」

(長野県 千葉俊彦)(高野公彦選)


(「汚れてしまったことばたち」とは詩的に過ぎる。もっともっと悪辣でどす黒くて陰湿で、人々を侮るものだ。)


郭公の・声の近きを・北窓に・聞きつつ朝の・水を飲み干す

(山形県 佐藤幹夫)(永田和宏選)


(徹底的爽やかさ。)


つぶやきて・罠に掛かりし・猪へ・君は静かに・引き金を引く

(山梨県 笠井一郎)(馬場あき子選)


(目を合わせないことがコツ。目が合うと情が移る。)