2016年6月20日
朝日新聞俳壇・歌壇からの印象句、印象歌の報告、第155回です。
【俳句】
黒蠅や・十九画の・字が動く (横浜市 波多野眞一)(大串章選)
(字にはいかにもそれらしいという字がある。「蠅」はその典型だ。)
捨畑へ・怒涛の如く・夏野かな (広島県府中市 宮本悠々子)(大串章選)
(都会人は知らぬが、いま日本列島全体がそうなっている。とりわけ福島。)
孑孑(ぼうふら)を・見てゐて・親に刺されけり (茨木市 窪田宣子)(大串章選)
(この句のおかしさは詠まれたことにあるのではなく、詠んでいる作者にある。)
【短歌】
景気よき・日本を知らぬ・学生らと・静寂満ちる・教室にいる
(丸亀市 金倉かおる)(佐佐木幸綱選)
(景気がいいなどということは単に人々に狂騒をもたらせただけの愚劣なのではないか。静寂満ちる教室はそう語っている。)
ありふれた・暮らしにあれど・恐ろしい・電網恢恢・疎にして漏らさず
(堺市 丸野幸子)(高野公彦選)
(電網多用の筆者の場合、監視対象となることは疾うに覚悟している。頼りは日本の民主主義水準。)
先に手を・出して敗けたる・国がいふ・謝れといふ・言葉は弱い
(裾野市 瀬戸敬司)(高野公彦選)
(国民は外交官並みの冷静さを常に持たなければならぬ。冷静さは謙虚をもたらすはずだ。)
分身の・術があるなら・残りたい・祖母の一人で・住まうこの家
(奈良市 山添聖子)(高野公彦選)
(政治家はいろいろな数字を並べて世の中を語るが、それゆえに、この気持ちが日本中に満ち満ちていることを把握できていない。)
母は子を・愛するものと・一片の・うたがいもなく・言うんだ君は
(摂津市 内山豊子)(永田和宏選)
(マザコン男子のやりきれなさ。)
タイサンボク・の花の名を・毎年訊いた・あなたね風を・吹かせてるのは
(神戸市 高寺美穂子)(永田和宏選)
(一方で、爽やかな風を吹かせるのも男。)