ある窓口業務の女性銀行員の話。
「多額の現金引出しに来た高齢女性に対し、振り込め詐欺防止対応マニュアルに従って「御使用の目的は?」と尋ねたところ、「自分のお金を何に使おうと勝手じゃがね!それを聞き出そうとは無礼じゃ!」と強い剣幕で怒られました。
言葉で返すのが恐しかったのでその高齢女性に黙ってマニュアルを見せたところ、マニュアルに「高齢の方には」という表現があり、「あんたはワシを高齢とおもっとんのかね!」と怒りはさらに大きくなりました。「上の者を呼べ!」「預金を全部引き上げる!」という事態にまで発展しました。
御自身が振り込め詐欺を警戒しなければならない危険域の高齢者だと自覚していない方がとても多いようです。そのような方々は警告があっても御自分の問題だとは思っていないようです。」
さて、このような問題の発生を防止するにはどうしたらよいか?
客に見せるマニュアルの「高齢者の方には」という表現を「50歳以上の方には」という表現に改め、運用は60歳以上に見える客に声を掛けることにすればいいのだ。
「なぜお金の使用目的を聞き出そうとするのだ」と問われたら、「50歳を少し超えていらっしゃるとお見受けいたしましたので」と答えれば、実質70に近い高齢者は悪い気はしないであろう。
むずかしいのは認知症だ。認知症こそ、ほんとうに認知症であるという自覚をもっている人は少ない。物忘れがひどい、むずかしいことを考えられないなどと認知症を心配する発言はしつつも、自分はまだ認知症になっているとは微塵も考えていない。その証拠に、すでに認知症になっているにもかかわらず、その人たちは認知症になったらどうしようなどとこれからのこととして認知症を心配をしている。
知らぬが仏、無理をして認知症であることを突きつけることはしないほうがいい。認知症であることの自覚があまりにも大きな失望を本人に与えてしまうからだ。
自覚せざるを得ない重度の認知症は的確に対処しなければならないが、無自覚認知症は放置するに越したことはないと考えられる。
窓口で60歳以下でも危なそうな人が来て現金を引き出そうとする場合、先のマニュアル改正はこの無自覚認知症対策としても有効であろう。