2016年4月4日


 朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第144回です。


 【俳句】


 誇らしく・賢治の国を・耕せり (久慈市 和城弘志)(大串章選)


 (知れば知るほど宮沢賢治はすごい人。農を愛したそのすごい人と同じ故郷で農を営む。)


 房総の・海と菜の花・ゆらぎあひ (東京都 岸田季生)(大串章選)


 (「ひねもすのたり」と同じ時間感覚。)


 妖精の・白き踝(くるぶし)・青き踏む (西宮市 近藤六健)(稲畑汀子選)


 (「青き踏む」は若草を踏んで歩む様子。絵にあるような美しさ。)


 難民は・怒りのぶどう・葡萄の花 (可児市 片山あや女)(長谷川櫂選)


 (読みにはキリスト教の知識が必要なようだが、筆者はスタインベックの「怒りの葡萄」を想起させられたのみ。あれはアメリカの国内難民だった。) 


 花の奥・村あり客なき・バスの往く (春日市 伊藤威)(長谷川櫂選)


 (日本には桃源郷ともいうべきこういうところが無数にある。無数にあるのに、ゼロに向かっている。)


 【短歌】  


 田水ひく・結いの放送に・集まるは・老多くして・生きがいに満つ

 (松本市 古畑守夫)(高野公彦選)


 (「結い」、農村の共同作業。仕事と生きがいが一致する、ある意味では理想郷。)


 東京の・くにたちに香る・沈丁花(じんちょうげ)・福島のわが・庭に濃からむ

 (国立市 半杭螢子)(永田和宏選)


 (沈丁花の強い香りは人の記憶を刺激する。3.11歌が多い中での秀歌。)


 山の影・うつすダム湖に・うばたまの・鵜の潜りたる・後の長しも 

(名張市 山縣みさを)(佐佐木幸綱選)


 (叙景歌なれども、湖面を見つめ続ける作者の姿がおのずと浮かぶ。)