2016年3月21日


 朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第142回です。


 【俳句】


 一階と・二階の暮らし・春深き (加古川市 森木史子)(長谷川櫂選)


 (同居しつつ気配だけで暮らし合っている夫婦の安寧ともいえぬ安寧。)


 吊るし雛・吊れば小さき・鈴の音 (高槻市 中島節子)(長谷川櫂選)


 (付けていたのを忘れていた鈴に愛しき思い。)


 雛の客・迎へし吾子の・人見知り (つくば市 今橋周子)(稲畑汀子選)


 (客に見せたいのは我が子のほうなのに。)


 【短歌】  


 三度目の・癌で死ぬかも・しれないと・歯みがきしながら・泣けてくる夜 (三郷市 吉村薫)(馬場あき子選)


 (歯みがきは自省を促す作業だ。鏡に自分が映っているし。)


 木々すべて・吹き飛ぶような・風の日の・熊笹の中に・猫の顔あり (高崎市 門倉まさる)(佐佐木幸綱選)


 (寒風がおさまるのを待つ自分と同じ思いのやつがこんなところにいた。)


 百歳(ひゃく)近き・母が我が手を・つかむ指・獲物捕えし・鷲の爪に似る (埼玉県 島村久夫)(高野公彦選)


 (動物化する母を実感する恐れではなく畏れ。)


 一億とは・耳新しい・言葉ですか・みな忘れかけて・ゐるだけですよ (長野県 小林正人)(永田和宏選)


 (「一億」とは「国」ということばを隠して「一億分の一」であることを自覚させようとすることば。)