2015年12月13日



 一橋文哉著「世田谷一家殺人事件~15年目の真実」(角川書店)を読んだ。この12月5日に新しく発行された単行本である。

 事件が起きたのが2000年12月31日。膨大な犯人の遺留物にもかかわらず一向に捜査が進展せず、迷宮入りが予想されつつあった。そんな中、2001年12月号、2002年1月号の「新潮45」にかなりリアリティのあるレポートが掲載され、筆者はそこに書かれた内容のリアリティから事件の概要はほぼこの線にちがいないと考えた。それから14年が経過しているが、今回発行された単行本の基本的ストーリーはこの「新潮45」と同じである。「新潮45」の著者名を失念したが、「新潮45」と今回の単行本の著者はたぶん同一人物か同一グループと推測される。



 記憶はかなりあいまいになっているが、「新潮45」と今回の単行本の違いを整理しておく。



 同じであると認められることは、

1 事件は金をめぐるものだったということであり、その金とは殺された宮澤家の住宅が公園用地として買収されるにあたって支払われた補償金だったということである。

2 主犯(事件を仕組んだ者)は韓国の新興キリスト教系団体に絡む者であったということであり、実行犯は韓国軍への入隊経験があり、かつまたアメリカネバダ州での訓練経験もある専門の殺し屋であったということである。

3 殺された宮澤家の保育園児の長男には言語障害があり、そのことについての母親からの相談が宮澤家と韓国の新興キリスト教系団体との関係を生んだということである。



 違うのは、

1 事件の原因となった補償金が、「新潮45」では、韓国の新興キリスト教系団体に関係する団体に宮澤家から献金というような性格ですでに支払われており、その返還をめぐってトラブルが発生していたとしていたのに対し、今回の単行本では、補償金は宮澤家の銀行口座に残っており、それを主犯側がこれから獲得しようとしている段階だったとしていることである。

2 主犯と韓国の新興キリスト教系団体との関係について、「新潮45」では主犯は完全なる信者であり、教団と一体的関係にあるとしていたのに対し、今回の単行本では主犯は一儲けしようと教団に入っていたにすぎない存在とされていることである。



 大きな違いは以上であるが、そのほかの違いとして、今回は実行犯と著者が直接会い、指紋を採るまでに至ったとしていること、前回は韓国の新興キリスト教系団体名及び宮澤家が献金した団体名が明示されていたが、今回は明示されていないこと、実行犯がその後日本国内の暴力団抗争のために殺し屋として雇い入れられ、再入国したとされていることなどがあげられる。



 当時、筆者は、記事の内容から判断して「新潮45」は、警察関係者が主犯、実行犯を把握しているにもかかわらず立件が不可能なため、情報をリークして社会的制裁にゆだねるしかない、あるいは日本の警察を犯人たちに馬鹿にされたくないという思いから、自ら書いたか、あるいは専門のライターに書かせたものと思っていた。今回の単行本はその観点からすると、日本の暴力団抗争にまで話を広げてくるなどややエンターテイメント過剰の感があり、また韓国の新興キリスト教系団体の事件におけるウエイトを低めているような気がする。こんなことからすると、当時警察からリークを受けて記事を書いたライターが今になって小遣い稼ぎのために書いたという、「新潮45」よりは目的意識の薄い性格の本かもしれない。