2015年11月30日


 朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第127回です。


 【俳句】


 上履きの・中まで届く・冬日かな (静岡市 松村史基)(長谷川櫂選)


 (ちょっと暖かくて、乾いた感じ、実感したことがあるような気がする。)


 冬蜂の・いのち一つと・なりにけり (霧島市 久野茂樹)(長谷川櫂選)


 (長寿の孤独。長寿、望むべきことなのか、そんなものはいらないか?)


 従業員・これで全員・朝焚火 (栃木県壬生町 あらゐひとし)(長谷川櫂選)


 (焚火をしながらアベノミクスのトリクルダウンを待つの図。ベケット的。)


 老いひとり・障子にもみぢ・貼りにけり (日南市 吉国一花)(大串章選)


 (これでいいのだ。)


 手拍子は・いらぬと小さき・熊手かな (松戸市 をがはまなぶ)(稲畑汀子選)


 (大きいのを買うと手拍子はもちろん、運んできて設置作業までやってくれると聞いた。)


 マウンドへ・小春の背中・ポンと押し (七尾市 本谷眞次郎)(稲畑汀子選)


 (「小春の日差しを受けた」という意味なのだろうか?柳家小春さんの三味線を聴くことが何度かあり、本句を採らしていただきました。)


 石蕗(つわ)の黄を・離れし蝶を・見失う (富津市 三枝かずを)(稲畑汀子選)


(今ここにはいない蝶を詠って存在せしめるという文学でしかできない技。)


 冬耕の・長子全う・したりけり (大阪市 西尾澄子)(金子兜太選)


 (農地を相続した責任を果たした長男の誇りと安堵。)


 【短歌】  


 こんな人・おるわと閻魔・大王に・毒吐く女あり・舌抜き給え (神戸市 中村美優)(佐佐木幸綱選)


 (怒りを買ったのはこの発言だけではなさそう。)


 枯しもの・散りしものみな・吹かれいて・しぐれは人の・こころにぞ降る (福島市 美原凍子)(永田和宏選)


 (荒涼たるフクシマの自然はしぐれをも受け入れず。しぐれは福島の人のこころにのみ語りかける。か?)


 とんぼには・とんぼの眼がある・くりくりと・とんぼはとんぼで・この世を見ている (館林市 阿部芳夫)(馬場あき子選)


 (その見ているこの世は、人間が見ているこの世とはちがうはずだ、という哲学的短歌。)


 「恋人岬」と・告げをるバスを・降りる者・誰一人無き・晩秋の旅 (東京都 宮野隆一郎)(馬場あき子選)


 (こういう旅こそ、いい旅です。)