2015年11月21日
報道によれば11月2日安倍首相はパク・クネ韓国大統領との会談において、慰安婦問題解決の最低条件として、ソウルの大使館前に設置されている少女像の撤去を申し入れたとのことである。少女像の撤去がなされれば、中断されたアジア女性基金による元慰安婦への給付金と同様の措置を実施し、また首相が手紙によって元慰安婦にメッセージを送り、これをもって本問題の解決とするとのストーリーのようである。
しかし、少女像の撤去という条件を出したところで日韓の和解は失敗したと筆者は判断している。
少女像は慰安婦問題に関する韓国側の誤解の象徴である。韓国側は慰安婦動員について日本軍による強制連行があったと誤認している。慰安婦に関する日本軍の様々な積極的関与があったことは事実であるが、日本軍による強制連行は確認されていない。敵国であった国々の女性の強制連行はあったのであるが、朝鮮は当時日本の一部とされていて日本の国内法が適用されていたのであり、朝鮮での日本軍による強制連行はそもそも考えにくいのである。
日本軍による強制連行という誤解の象徴であり、慰安婦について誤ったイメージを人々に与える少女像の撤去は本来的には望ましい。
しかしながら、韓国政府にそれを要求するのは無理難題の押し付けであり、ことの正当性とは離れて、韓国政府に相当な不快感を与えるものと言わざるを得ない。
すなわち、少女像は韓国民間団体が設置したものであり、それを自主的に撤去させるのは当該民間団体が慰安婦問題の強硬派であることからして当分の間不可能であり、強制的に撤去させるためには法的根拠が必要であるが、道路法制の援用といったからめ手を使うほかなく、それは韓国政府を政治的に非常に困難な立場に追い込むことになるからである。
日本において同様な事例を想定してみれば、靖国神社の遊就館を廃館にせよと日本政府が他国から要求されるようなもので、排外的民族主義を無用に煽り立てることになるのは必至であり、政府がこれに応じれば右側からの圧力によって政権は崩壊するであろう。
少女像撤去はこれと同様の政治性を持つのであり、その不可能性は日本側において容易に推測できるはずのことである。
にもかかわらず、和解を口にしながら、ほぼ実現不可能な厳しい条件を安倍首相は韓国側に押し付けた。韓国側は安倍首相に和解の意図は本当はないと判断するであろう。一方、安倍首相は積極的に和解の姿勢を示したのに事実誤認のまま韓国側が受け入れようとしないと言うであろう。こんな水掛け論的対立を導く少女像撤去条件によって日韓和解は遠のいていったと判断するほかはない。
大局を読めず、相手国の事情もわきまえずに、目先の勝ち負けにこだわる安倍首相の小児病的狭量がここに露呈していると筆者は考える。