(前)の続きです。



【是故空中】



 それゆえに、人間が自分たちの都合で勝手に世界を区分けする以前のそもそも区分けできない曖昧・朦朧(あいまい・もうろう)とした世界においては



 【無色 無受想行識】


 人が見るもの、聞くもの、感じるものは,そもそも、何の根拠もなく、あるのか、ないのか、わからないものなのである。

 人が見たり、聞いたり、感じたり、それぞれが同じだとか、仲間だとか、違うだとか、原因だとか、結果だとか、ああすればこうなるだとか、そうならないだとか、いろいろ人が考えることは、何の根拠もなく、たよりにすることができないものなのである。



【無眼耳鼻舌身意】


 眼・耳・鼻・舌・身という人間の感覚器官と考える能力(意)は、人間が勝手にした世界の区分けに従っているだけのものであって、まったくあてにならないものである。



【無色声香味触法】


 色のちがい、声()のちがい、香りのちがい、味のちがい、触感のちがいの感覚、人間が自然界の法則と考えるもの()は、根拠のない、人が勝手に世界を区分けした結果のものであって、まったくあてにならないものである。



【無眼界乃至無意識界】



 視覚の世界をはじめとする感覚の世界もものごとを考え出す世界も、そんなものは人が勝手に世界を区分けした結果として立ち上がった世界であって、まったくあてにならない、無根拠の世界である。



 【無無明亦無無明尽】



 だから、わかっていないということもないし、わかっていないということが終わることもない。



 【乃至無老死亦無老死尽】



 老いて死ぬということもないし、老いて死ぬということが終わることもない。



 【無苦集滅道】


 一切が苦であるとか、苦には原因があるとか、苦は抑えられるとか、抑える道があるとか、そんなことはまったくない。



 【無智亦無得】



 価値のあることを知るとか得るとか、そんなことはまったくない。



 【以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅密多故 心無罣碍】



 得るものは何もないとわかったがゆえに、道を求める菩薩たちは、この世の本当の真理によって生きようと考えているため、人間が勝手に作りだした世界のことについて心にまったくこだわりが生じない。



 【無罣碍故 無有恐怖 遠離一切転倒夢想 究竟涅槃】



 心にこだわりが生じないから、恐れるものがなく、もろもろの誤った考えにおちいることもなく、「涅槃」の境地に至ることができる。



【三世諸仏 依般若波羅密多故 得阿耨多羅三藐三菩提】



 過去、現在、未来の仏たちは、この世の本当の真理によっているがゆえに、完全な悟りを得ているのである。



【故知般若波羅密多 是大神咒 是大明咒 是無上咒 是無無等咒 能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅密多咒】



 この世の本当の真理は、神秘の真言であり、輝く真言であり、無上の真言であり、比べるもののない真言であり、一切の苦を除くことができ、真実は虚しくない、そのことを知っているからこそ、自分(お釈迦様)はこの世の本当の真理の真言を唱えるのである。



【即説咒曰】



 こう言ってお釈迦様は真言を唱えた。



【羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆呵】



 ギャーテー、ギャーテー、パラギャテー、パラソーギャーテー、ボーディーソワカ

 (すべてを疑い、真実に至る道を求める者に、幸あれ)