2015年4月25日




 読者の多くは「重箱の隅をつつく」議論と思われるであろう。しかし、ルールは「重箱の隅」のところほど重要な内容がある。

 筆者は1039(「国際平和支援法案」における選択肢)、1041(国民よ、自らを疑え)において自衛隊の外国軍隊後方支援活動実施の要件について国会事前承認よりも国連安保理決議が必要であることを主張してきた。

 このたび、4月25日朝日新聞朝刊において法案要旨を見ることができた。そこでは国連総会決議、国連安保理決議が要件とされている。

 筆者の主張通りでめでたしめでたしか?

 残念ながらそうではないのである。




 法案第3条第1項に自衛隊の後方支援対象となる「諸外国の軍隊等」との定義がある(第3条第1項の条文は後に掲げる)。

 そこには「国際連合の総会または安全保障理事会の決議が存在する場合において」という要件が書かれている。

 そして国連総会決議及び安保理決議の内容についての規定がある。

 その規定されている内容が「諸外国の軍隊等」の軍事行動を直接支持するものであれば筆者の主張どおりで問題はない。自衛隊は国際的な合意のある軍事活動の後方支援を行うことになる。

 しかし、具体的にはイとロとの2つがあって、イでは「当該外国が当該活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、または認める決議」とあって「諸外国の軍隊等」の軍事行動を直接支持するものであるが、ロのほうに問題がある。

 ロでは、「イに掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威または平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取組を求める決議」とされている。

 すなわち、イが軍事活動についての支持決議であるのに対して、ロは「取組」を支持する決議であって、「取組」とは極めて幅広い内容を含むのであり、現実的には軍事活動では合意できないがゆえの妥協的表現なのであって、むしろ軍事活動については合意できませんでしたということを意味するのである。

 そして、国連総会決議は3分の2の賛成によって決定されるのであり、ということは3分の1が反対している場合でも決議はなされるということである。

 ロが置かれることによって、自衛隊は必ずしも国際的合意が得られていない外国の軍事活動の後方支援を行うことができるということになっているのである。




 例えば、2014327 日にロシアによるクリミア・セヴァストポリの編入の無効性ついて採択した国連総会決議がある。この決議においては「武力の行使や威嚇によってウクライナの国境線を変更したりウクライナを分割するクリミア半島の地位変更の不承認」と「政治的対話による状況の速やかな平和的解決」を求めている。

 これはロのいう「取組」を求めるものと、広く読んで読めると考えていいであろう。

 すなわち、仮にクリミア半島をめぐって現在の代理戦争事態が米露直接衝突となった場合、この国連総会決議をもって我が国自衛隊の米軍後方支援は可能となることになる。

 多くの国際紛争に当たって我が国は紛争の一方の側に立って後方支援を行うことが可能となるであろう。それは我が国の中立性の維持を困難とし、「存立危険事態」を招くことにもなろう。




 世間を欺く巧妙な法案と言わざるを得ない。

 公明党もまた世間並みに欺かれたのであろうか?それとも十分にすべてを知った共犯者か?




 (参考) 国際平和支援法案第3条第1項(筆者注:いかなる場合に自衛隊が後方支援することになるかを、支援対象となる「諸外国の軍隊等」を定義することによって示す条文)



「(支援対象の定義)

第3条第1項 諸外国の軍隊等  国際社会の平和及び安全を脅かす事態に関し、次のいずれかの国際連合の総会または安全保障理事会の決議が存在する場合において、当該事態に対処するために活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織をいう。

イ 当該外国が当該活動を行うことを決定し、要請し、勧告し、または認める決議

ロ イに掲げるもののほか、当該事態が平和に対する脅威または平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国際連合加盟国の取組を求める決議