2015年3月2日
朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第88回です。
【俳句】
臘梅の・色をつたひて・雨しづく (東京都 我妻勝美)(大串章選)
(肉月と虫偏の「ろう」がある。肉月のほうは12月の意、虫偏はミツバチに因む。花びらが雨でさらにツヤを増す。直前に眼前で視認した。)
手袋を・落とした人の・こと思ふ(川越市 松本良子)(稲畑汀子選)
(手袋と折りたたみ傘の袋が落し物に多い。傘の袋より手袋のほうが思い出と絡みやすい。)
バレンタイン・悲しすぎるよ・満天の星 (八幡浜市 大下まゆみ)(金子兜太選)
(絶叫。字余りが割り切れなさを訴える。)
山や谷・あるが如くに・蝶飛べり (東京都 青木千禾子)(長谷川櫂選)
(ビル街を飛ぶ蝶。高層ビルの窓にも春、という穏やかさだけではないものがあるような。)
【短歌】
管理栄養士の・試験を受くとふ・をとめらが・春の七草・唱へてゐたり (三島市 福崎享子)(高野公彦選)
(「セリ、ナヅナ……」、試験に出るかもしれない。句中に春が重なり、満ちている。)
はっとして・我に返れば・服役の・三十年目の・正月も過ぎ (アメリカ 郷隼人)(永田和宏選)(馬場あき子選)
(服役とまではいかなくとも、誰しもあり得た別の三十年の人生がある。)
自分史に・書きたくないこと・思ひつつ・寒き厨(くりや)に・大根煮るなり (前橋市 荻原葉月)(馬場あき子選)
(自分史に書きたくないことを集めた本を作ればすごいだろうなあ。いや、かえってたいしたことがないのかもしれない。)
福島も・日本固有の・領土です・もどれない人・十二万人 (半田市 石橋美津子)(佐佐木幸綱選)
(そうなんです。物理的に土地があればいいというものではないはずなのです。復興問題を撃ち、領土問題を撃つ。)