2015年2月16日
朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第86回です。
【俳句】
以下の金子兜太選の3句、いずれもよくわからないところがあるのだが、それが印象に残るのである。
個人とか・ぽつんぽつんと・二月かな (岐阜市 阿部恭久)(金子兜太選)
(「ぽつんぽつん」で孤独さはわかるのだが、「個人」はどういう文脈で語られたのだろうか?)
冬田打つ・夫の恍惚・夜の鋤(千葉市 高山薫)(金子兜太選)
(「恍惚」とは老齢による痴呆なのだろうか?言葉どおりの「恍惚」なのだろうか?「夜の鋤」とは作業の真似をするというのだろうか、実際に田に出ているのだろうか?。)
手に受けし・喃語にちから・犬ふぐり (東京都 金子文衛)(金子兜太選)
(喃語とは「あうあう」というような言葉をまだしゃべれない赤ちゃんの声。さて、「手に受けし」は赤ちゃんを抱いているのだろうか?抱きながらしゃがんで犬ふぐりの花を見ているのだろうか?)
逆らはぬ・つもりであれど・懐(ふところ)手 (上山市 佐藤権一郎)(長谷川櫂選)
(よくあること。相手には挑戦的であることが伝わっている。)
飛び交わす・影のみの鳥の・春浅し (可児市 羽貝十糸子)(長谷川櫂選)
(まだ部屋の中、だから鳥は影のみ。理屈っぽいがよくわかる。)
吾のごと・器小さき・狸かな (長岡市 内山秀隆)(長谷川櫂選)
(それが上の立場の人間であってみれば、「吾のごと」で十分に非難になっている。)
蠟梅に・飽かぬ横顔・うつくしく (広島市 吉木あゆみ)(大串章選)
(「蠟梅」には地味な印象がある。「うつくしく」も大人の、控えめな美しさだ。)
麦の芽の・起伏の果に・阿蘇のあり (熊本市 永野由美子)(大串章選)
(阿蘇は余所にはない大景観を提供してくれる。)
探梅を・あきらめてより・気づく坂 (岩倉市 村瀬みさを)(稲畑汀子選)
(老齢、足弱にも俳句世界は開けている。)
【短歌】
女の子・ふたりがのぞき・こむ川を・風船ひとつ・流れゆくなり (広島市 熊谷純)(馬場あき子選)
(「女の子ふたり」「風船」で詩趣たっぷり。それにしても「風船」とはすばらしい命名だ、今気づいた。)
新しき・道出来たれば・星だけが・真夜わたり行く・星越峠 (徳島市 上田由美子)(馬場あき子選)
(便利な新道ができれば旧道を人は通らなくなる。かつて行き来したその道を深夜に思い出す。星越峠という地名は数多くあるようだ。同じような美しき発想が各地にあるというのもすばらしいこと。)
鯉の話・するとき男・眼を丸く・口をぱくぱく・鯉に成り切る (群馬県 酒井せつ子)(佐佐木幸綱選)
(この男が身内だとすると、さらに面白い。)
裸木に・緑のインク撒くごとく・冬陽を浴びる・オウムらの群れ (相模原市 佐藤可奈)(佐佐木幸綱選)
(緑のオームかインコかが野生化して、大きな群れになっているのを小生も見たことがある。たしかに「インク撒くごとく」という迫力があった。)