2014年12月1日


 朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第76回です。


 【俳句】


 人類を・放し飼ひして・山眠る (東京都 をがはまなぶ)(大串章選)


 (ニーチェに言わせれば「神は死んだ」というわけだが、「放し飼い」にしろ「飼っている」ところまで読めば、意味はさらに深い。)


 呼出しは・日本人なり・冬ぬくし (川西市 上村敏夫)(大串章選)


 (御指摘、うれしいですね。)


 渡りきて・木枯島の・戸を叩く (山口県田布施町 山花芳秋)(大串章選)


 (厳しい北西風も「便り」を運んでいる。)


 人人の・中に一人と・なりて冬 (香芝市 土井岳毅)(長谷川櫂選)


 (師走の喧騒への不参加感。)


 月惜しむ・すつぽん二匹・首伸べて (福岡市 加藤秀則)(長谷川櫂選)


 (自己をすっぽん的に認識することにより、月を惜しむ心が募る。)

 


  【短歌】

 


 ねぇ友よ・語り合おうよ・家族写真・スマホで見せるの・そろそろいいよ(東京都 上田結香)(高野公彦選)

 


 (借り物の価値観でしか生きていない友への強い嫌悪。)


 新製品、・グルメに行列・つくる人・待っているようで・せきたてられてる(西条市 村上敏之)(高野公彦選)


 (第1首と同じ気づき。)


 四十円の・ラーメン食べたと・いふ短歌・われは三十円・少し先輩 (長野県 小林正人)(永田和宏選)


 (私は京浜急行梅屋敷の商店街で開店祝いで25円のラーメンを食べました。)


 秋さかる・多摩川の空に・翔び来たる・鶚(みさご)が尺の・鯉を捉へつ (東京都 上田国博)(馬場あき子選)


 (こういう発見があるとき、短歌は伝達し、記録するとてもいい手段。なお、鶚は英語で「オスプレイ」。)


 寺山が・マッチ擦る音・するような・大臣辞任の・ニュース知る夜 (石川県 瀧上裕幸)(馬場あき子選)


 (辞任理由がくだらなすぎてマッチを擦るのももったいない。「マッチ擦る・束の間の海に・霧深し・身を捨つるほどの・祖国はありや」(寺山修司))


 死ぬのなら・酒を止めねば・よかったと・誰も言わずに・酒を飲む通夜 (大和高田市 森村貴和子)(佐佐木幸綱選)


 (こういう過ちは決してしてほしくない。)