2014年6月15日
アベノミクスの3番目の矢・成長戦略は、その自覚の有無は別として、トリクルダウン理論に基づくものである。
トリクルダウン(trickle down)とは「したたり落ちる」という意味であって、企業あるいは富裕層が豊かになれば、結果的にその恩恵は貧困層にまで及ぶという考え方である。
この考え方は、半分正しいともいえるし、必要な条件を示していないから不十分だということもできる。
共産党はかねてよりこのような考え方を「大企業優遇」という言葉で非難してきた。これを奇貨として自民党はこれをイデオロギー問題として問題を棚上げしてきた。
この結果、トリクルダウン理論についての詰めがなされないまま、多数決原理(選挙結果)で問題が処理されてきた感が否めない。
トリクルダウン理論が正解であった事例としては日本の高度経済成長期の全般的所得水準の向上を上げることができるだろう。
一方、不正解の例としては、中国をはじめとする開発途上国における極端な貧富の格差の存在(ワールドカップ開催中のブラジルもまさにその例だ)、横浜の大庭園「三溪園」の存在とその利益の源となった「女工哀史」の併存、アメリカにおけるビバリーヒルズと黒人スラム街等々枚挙にいとまがない。
トリクルダウン理論の正解不正解の別れ道ははっきりしている。それは労働市場の需給状況だ。
企業がいくら儲かっても労働市場が軟調であれば賃金が恩恵的に上がることなどない。逆に経営が苦しくても労働市場がひっ迫していれば企業は賃金を上げざるを得ない。
マーケットメカニズムがトリクルダウン理論の帰趨を決定するのだ。
ただし、労働市場における企業と労働者の立場は対等ではない。自由な市場で決定される労働条件では労働者に与えられる処遇は不十分となる。
この認識のもとで近代国家は幼年労働者の規制、長時間就労の規制から始まる労働基準法、労働組合法等のマーケットメカニズム修正法制を整備してきた。
以上の点からして、アベノミクスの成長戦略は二重の意味で階級的性格、富者優遇の性格を帯びていると言える。
すなわち、トリクルダウン理論を無条件に振り回していること、労働市場における対等性確保のための労働法制を骨抜きにしようとしていること、この2つである。
株価をはじめとする短期的経済指標は、超金融緩和、為替引下げ競争、開発途上国経済動向等によって様々な様相を示すであろうが、経済の基本を忘れた政策の長期効果は人口に現われる。
成長戦略には人口目標も掲げられるようだが、政策の整合性を無視した空しきスローガンにすぎないだろう。