2014年6月12日
6月末に閣議決定される予定のいわゆる「骨太の方針」に法人税減税の方針が明記される予定であるという。現在の実効税率30%台を20%台にということだから約10%の引き下げと考えておいていいだろう。1%の引き下げで税収は約4700億円減だというから10%だと4兆7千億円。消費税率2%弱に相当する。消費税率の8%から10%への引き上げが年末にかけて大きな問題であるこの時期になぜ法人税率の引き下げなのだろう。
基本的には「トリクルダウン」という発想からこれは来ている。企業栄えればその恩恵は広く国民一般にこぼれ落ちてくるという考え方である。法人税率の引き下げは企業収益を改善し、最終的には株式配当を増加させる。この効果によって企業は投資を増やし、また外国企業は日本に進出してくるであろうというのである。その結果もたらされる好景気が国民の雇用、所得にプラスをもたらせますというのである。
しかし、法人税率の引き下げは投資増加、外国企業の進出を促すだろうか?筆者は大いに疑問に思っている。
中央競馬にプレミアムレースというのがある。競馬の配当率はおおむね75%だが、プレミアムレースと指定されたレースの指定された賭け方(単勝とか馬連とか三連単とか)の場合、配当率が5%上乗せされるのである。
JRAはこれによる売り上げ増加を当然期待しているだろうが、プレミアムレースが導入された理由はそれではない。払戻金を受け取らないで時効になってしまいJRAが支払い義務がなくなる時効収入という収入がJRAにはある。それは制度の意図するところではない収入であるからファンに還元しようというのである。
この配当率の引き上げによる増収効果はどうであろうか?調べたわけではないが、ほぼ皆無と言っていいだろう。指定されたレースの指定された賭け方の売り上げが他のレース、他の賭け方とは異なる動きを示していることはありうるが、他のレースからの売り上げの平行移動であってトータルとしての売り上げ増効果として見えるようなものにはなっていないと思う。競馬ファンにとってはレースに当たることが問題なのであって、期待配当が少々高くなることが選択の変化をもたらせるとは考えにくい。
プレミアムレースはまさに増収狙いなのではなく、JRAはファンの方を向いていますよという宣言、PR効果があればこそ実施されているものと考えていいだろう。
さて法人税率の引き下げは企業の投資行動に変化をもたらせるであろうか?
投資額に対する利益率を仮に20%としよう。法人税率を35%とすれば、税引き後の利益率は13%である。法人税率が25%に引き下げられれば税引き後の利益率は15%となる。投資額に対する利益率の差が2%で投資行動を決めるようなウスい商売を一般の企業はしていないだろう。企業は2%の経費節減努力を必死で行うものであるが、将来不確定な投資判断を決める数字はそんなに細かくはないはずだ。
法人税率の引き下げに必要な4兆7千億円の金はドブに捨てるようなもので投資促進効果は極めて薄いと考えられる。JRAのプレミアムレースの効果と同様、安倍政権は企業の方を向いていますよという宣言、PR効果に実質があると考えるべきだろう。JRAとの違いは、JRAにはそれを実施する原資がある、しかし政府に原資はないということである。嗚呼!!