朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第45回です。



【俳句】 



 今は一人・言葉を仕舞い・春と棲む  (伊那市 北原喜美恵)(金子兜太選)

 (「言葉を仕舞う」、これをふつう孤独と考えるが、ここではそうではなかろう。「仕舞う」に作者のきっぱりとした心持が表わされている。) 

 春を背に・廊下は果てし・なく暗い (福津市 松崎佐)(長谷川櫂選)

 (春謳歌、春愁、春のまどろみなど一般的な春の句とちがう世界。)

 大桜・わが重心の・崩れけり  (長崎市 中村昭夫)(大串章選)

 (仰ぎ見ているとこうなりますね。)

 
【短歌】

 淡海(あふみ)ゆく・魞(えり)さす舟の・湖面には・比叡おろしの・白き波立つ (越前市 内藤丈子)(永田和宏選)

 (人事を詠む歌が多い中、人事を離れ叙景に徹している歌はすがすがしい。魞(えり)は魚を採るための定置漁具。)

 あたたかい・春の日差しに・目をつぶり・そうになってる・黒い撫牛(なでうし) (富山市 松田わこ)(高野公彦選)

 (「撫牛」とは、痛み治癒を祈って人が撫でさする神社などに置いてある牛の像。その像が生きていて心地よさを楽しんでいるようだというのだ。作為なきこどもの直感。)