2014年4月16日
憲法に解釈の余地があることは、すべての法令、私契約に解釈の余地があることと同様、当然のことである。
また、その解釈は書かれている文言に制約されることもまた、すべての法令、私契約と同様、言うまでもないことである。
政府はこれまで、集団的自衛権は憲法上許されないという立場をとってきたが、このところ安倍首相を先頭にして解釈の変更により集団的自衛権は憲法上認められるとする閣議決定を行おうという動きを強めている。
憲法上その解釈変更は可能か否か、本文においてこれから検討する。
その便宜のため、まず憲法第9条を以下に掲げる。
第9条条文
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
集団的自衛権合憲論者は、自衛隊合憲論と同じ論理によって集団的自衛権は合憲となると主張している。このため、まず自衛隊合憲論の論拠を確認しておこう。
まず、戦争放棄を定めた第9条第1項であるが、「国際紛争を解決する手段としては」という条件を付けて戦争を放棄している。したがって、第9条第1項はすべての戦争を放棄しているのではなく、国際紛争を解決するための手段としての戦争を放棄しているのであって、我が国領土領海への外国からの侵略への対抗措置、すなわち自衛のための戦争は放棄されていない。
次に戦力不保持と交戦権否認の第2項であるが、保持しないとされている戦力には条件が付されていない。否認されている交戦権にも条件は付されていない。したがって、戦力を保持することを認める余地はまったくない。交戦権を認める余地も全くない。
しからば、いかなる説明で自衛隊が合憲とされているのかというと、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲の実力は「戦力」とは言えないとして、合憲とされているのである。また、外国からの侵略という急迫した事態に対応するための自衛行動は「交戦権」という概念の範囲外であるとして、自衛のための戦争が否認されていないのである。
あらためて言えば、「戦力」「交戦権」は全面的に否定されている。戦力外の実力、交戦権外の戦闘が認められるのである。このような論理によって我が国自衛隊の存在は合憲とされ、自衛隊が我が国防衛のために戦うことも合憲なのである。
さて、集団的自衛権である。集団的自衛権とは、他の国が武力攻撃を受けた場合、武力攻撃を受けていない別の国が武力攻撃を受けた国に協力し、共同で防衛を行う国際法上の権利である。定義はこうだが、集団的自衛権の行使又は行使の事前約束は、自国が攻撃を受けた場合他国から同様の協力を受けることを期待してなされるものであることは言うまでもない。すなわち、集団的自衛権の現実的な形態は安全保障条約であり、軍事同盟・攻守同盟である。
この集団的自衛権が憲法上どう取り扱われることになるのかを検討する。
まず第9条第1項に関しては、集団的自衛権の行使による戦争は、「国際紛争を解決する手段として」の戦争ではなく、自国防衛の強化、すなわち自国防衛についての他国の協力を得るために行われる戦争である。したがって、第9条第1項によって放棄した戦争ではないということができる。したがって、集団的自衛権は第9条第1項においては許容されていると考えられる。
次に第2項に関して集団的自衛権を考える。集団的自衛権の場合は他国と他国との戦争に関与していくのであるから、それに必要な実力はその戦争の内容に規定されるので、自国の防衛のための「必要最小限度の範囲の実力」という概念は成立しない。「戦力」とは言えない我が国を防衛するため必要最小限度の範囲の実力を集団的自衛権行使のために「流用」するとすることによって、無条件の戦力不保持を規定する第2項前段との整合性を確保することは可能であろう。「戦力」でないものを「流用」するのだから「戦力」ではないという論理である。
さて、無条件に交戦権を否認する第2項後段との関係である。外国からの侵略という急迫した事態への対応は交戦権の範囲外という説明は集団的自衛権の場合には適用できない。戦っているのは他国と他国であり我が国が急迫の事態に立ち至っているわけではないからである。また、安全保障条約を締結してあらかじめ集団的自衛権の行使を約束しておくというような場合にはさらに緊急性も急迫性も全く存在していない。集団的自衛権の行使、また集団的自衛権の事前約束としての安全保障条約の締結は、防衛政策上の選択であり、それこそ国の交戦権に基づくものと言うほかはない。
要するに、集団的自衛権は憲法第9条第2項後段に規定する国の交戦権の否定に真っ向から抵触するものであり、憲法解釈によって集団的自衛権を合憲とする余地はないのである。
集団的自衛権合憲論者はこの集団的自衛権と交戦権の問題をどのように説明するのだろうか。反論を待ちたい。