2014年4月7日


朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第42回です。


【俳句】


春の海・なるべしあなたの・雲の下 (八王子市 中尾公一)(金子兜太選)


(雲の上の「あなた」は太陽ということか、それとも別の存在か。)


初蝶を・流れてゆきぬ・牛の声 (いわき市 馬目空)(金子兜太選)


(「初蝶を」の「を」、これを「と」としたり、「は」としたり、「に」としたり、「へ」としたりして考える。)


わが影に・じやれつく日永の・よろけ脚 (土浦市 茂手木晧介)(金子兜太選)


(「老」は「軽み」を呼ぶものでもある。)


小豆島・桜の中に・接岸す (茂原市 鈴木ことぶき)(長谷川櫂選)


(大きな景色だ。)


春愁や・また返されし・生返事 (福山市 広川良子)(長谷川櫂選)


(春愁は作者か、相手のほうか?)


無常とか・弁当を食ふ・花の下 (岐阜市 阿部恭久)(長谷川櫂選)


(理屈でわかってはいても、実感はなかなか難しい「無常」。ましてこの季節では。)


三月や・辛くもサリン・逃れたる (取手市 御厨安幸)(大串章選)


(小生も出勤が早ければ危なかった。徒歩で霞が関に至った時のあの騒然とした雰囲気を思い出す。)


野遊の・どこかに杖を・忘れきし (高松市 白根純子)(稲畑汀子選)


(足の不自由も忘れさせる春うらら。)


【短歌】


三椏(みつまた)の・咲く道の辺に・紙漉きの・家ほの白し・水のにほひす(浜松市 松井恵)(馬場あき子選)


(こういう日本の景色がなくなっていく。)


畑やめ・田圃もやめて・田舎の兄は・ひとりになりて・農地手放す (さいたま市 田中ひさし) (馬場あき子選)


(農地が売れればまだいいが、山間では買い手はいない。)


微視的かつ・遅筆兵営の・三ケ月・四半世紀かけ・書きたる巨人 (佐渡市 小林俊之)(佐佐木幸綱選)


(大西巨人逝去。大著「神聖喜劇」は帝国陸軍の狂気が大日本帝国憲法第3条「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」を淵源とするものであることを明らかにした。「巨人」は固有名詞でもあるが、献辞でもある。)


生きるのも・つらいと言いつつ・母は背中・曲がりしままに・柿ピーを喰む (鎌ヶ谷市 佐々木カツコ)(佐佐木幸綱選)


(作者が歌うのは「生」の凄さか、「執着」の無残か、母への批判か。)


保母さんの・赤いジャージを・しんがりに・園児ゆらゆら・春の畔ゆく (霧島市 久野茂樹)(佐佐木幸綱選)


(掛け値なくほのぼのとみられる景色はこの景色に限られるのではないか。)


壇上で・卒業証書・もらふ子の・髪が寝ぐせで・嗚呼はねてゐる (下関市 筒井琴美)(高野公彦選)(永田和宏選)


(作者はこの子の母親だろうか。「嗚呼」がそれを推定させる。)