2014年3月3日


朝日新聞俳壇、歌壇からの印象句、印象歌の報告、第37回です。


【俳句】


屋根雪崩(なだれ)・してあり一人(ひとり)・言(ごと)つづく (小樽市 辻井卜童)(稲畑汀子選)


(「してあり」という言葉使いは知らない。「して」で切れて「あり」は独立するのかな?いずれにしても、断続的に屋根から落ちる雪の音のすごさ、そのたびに漏れる小さな独り言、その対比がもたらす静寂と孤独、ひしひし。)


地獄へと・続く吹雪の・家路かな (福島県伊達市 佐藤茂)(長谷川櫂選)


(家路が地獄行きという悲劇なのだ。作者住所からすれば原発地獄と推定する。別に推測して、家路が行き着くところの家庭が地獄だとすると、これはまたこれで凄い句になってくる。)


枝雪の・落ちるは樹々の・背伸びかな (八千代市 川原文男)(大串章選)


(雪の重みにたわんでいた真冬の枝から一挙に雪が落ちる。それを樹木の為すところと感知する。人間が捉える春の兆しの最も早いものだろう。)


【短歌】


夜おそく・帰る息子の・ドアの音・今日一日を・たたきつけたり (廿日市市 上谷美智代)(永田和宏選)


(鬱屈表現は様々だが、同種の鬱屈が世に満ち満ちている。為政者はこれを知らなければならない。ことは深刻だ。)


はちみつを・たらしたパン・ケーキのように・ひかりまみれで・眠る冬猫 (大阪市 蒼井杏)(永田和宏選)(佐佐木幸綱選)


(形容、斬新。ひとつの世界、ひとつの宇宙が創り上げられた。慶賀すべし。)


腿(もも)と腿・そろえてきみの・そばにいる・嵐のような・恋の静けさ (瀬戸内市 安良田梨湖) (永田和宏選)(馬場あき子選)(高野公彦選)


(外的静ゆえ、それがはらむ内的動の危うさ、激しさ、緊張が迫る。よくぞ捉えたり。)


ぬっと来て・昼飯食べて・昼寝して・子は淡々と・帰りたりけり (西予市 大和田澄男)(馬場あき子選)


(交わす言葉はなくとも親子は親子。ゆえに歌となる。)