2014年1月31日
昨日(1月30日)のNHK「クローズアップ現代」は「東大紛争45年目の真実・教授たちの告白録」であった。1969年1月18日・19日の安田講堂事件をもって収拾された東大紛争(これを「闘争」というかどうかによって立場が表わされることになる。筆者は「闘争」とは言えない。)について、当時の加藤学長をはじめとする教授会執行部中心メンバーが収拾直後に集まって事件を語り合った発言記録が発見されたというのである。報道されたかぎり(一時、新聞の集金が来たのでテレビを離れた)においては、その記録の内容に特に驚くべきことはない。
「クローズアップ現代」の報道スタンスは次のようなものであった。
1 教授会側は「大学の自治」を守ることを究極の課題としていた。そのためには大学の自己否定となる入試の中止は回避されなければならないと判断された。このため学生側との対話路線は断念されなければならず、機動隊導入が決定された。
2 しかし、1969年4月の入試は政府・文部省の判断により中止とされ、機動隊導入をきっかけに大学に対する政府・文部省の管理は強まり、教授会側が守ろうとした「大学の自治」は破壊されていった。
3 学生側は提起した問題は、「高度経済成長路線への疑問」「この社会での学問の意義」「大学の存在の意味」といったものであった。そのような問題提起に一定の世論の支持があった。しかし、この問題提起に教授会側はまともに答えられなかった。
以上のように、番組が与える印象は、学生の問題提起を「是」とし、政府・文部省の管理強化を招いた教授会側の対応を「非」とするものであった。
このことを報告するのがこの文章の目的ではないが、なぜ政府・文部省は強かったのかということについての問題意識が番組には欠けている、これが根本的問題であることを指摘しておきたい。番組は学生側の問題提起に世論の支持があったかのように報道していたが、それは事実に反する。世論は東大紛争を東大生という特権的学生の運動として冷ややかに見ていたのであり、一定の支持があったというのは過大評価である。政府・文部省はそのことを冷静に見てとっていたからこそ、強気の判断を下し、その後の管理強化を強めていったのである。
さて、本論である。番組のコメンテーターは評論家・松本健一であった。その松本のコメントが時間がなくて途中で切れてしまった。切れてしまった松本のコメントは次のようなものであったと思う。
「問題提起した学生たちはその後社会人となり、保守政治を支える官僚となり大企業の中核を担う企業戦士となっていった。今日露呈している様々な問題の淵源は、学生たちの問題提起が社会から無視されただけでなく、提起した本人たちによってもいとも簡単に放棄されたことによると考えられる。」