2013年3月26日


ニュー・ハマコーこと浜田宏一イェール大名誉教授は、アベノミクス、特にそのうちの金融政策についての理論的支柱であり、この道の大家である。

 その浜田教授が以下のことについて御存知ないはずはない。

 しかし、その著「アメリカは日本経済の復活を知っている」ではまったく触れられていない。(この本は賢いゴーストライターによるもので、そのライターが意識的にカットしたのではないかと筆者は疑っているが、下司の勘繰りというものかもしれない。)

 このため、浜田メソッドが万能特効薬であるかのように誤解されてしまうおそれがある。それは浜田教授の意図に反するものでもあると思う。

 本稿はそのような老婆心からの報告である。


 まず、浜田教授主張の金融緩和策は為替レート引き下げ(円安)を媒介項とする景気回復策であり、このアイデアはオーソドックスな金融政策ではない。

 オーソドックスな金融緩和策は、期待利潤率の低い状態にある民間企業に対して低金利の資金を供給することによりその投資活動を刺激しようとするものである。決して、為替レート引き下げを媒介項として景気回復を図ろうとするものではない。

 為替レート引き下げ策は各国の際限なき引き下げ競争を呼ぶことになるおそれがあり、それは禁じ手とされている。

 安倍・オバマ会談でアベノミクスは容認されたが、容認された理由は、円安が目的ではなく、オーソドックスな景気回復策の結果として発生したものとされたからである。(アメリカ自体が禁じ手を使っているという後ろめたさも一原因であると思われる。)


 次に、浜田教授は、引き続いた円高の原因を他の通貨(ドル、ユーロ)に比べての円の供給量不足によるものと断じている。

 しかし、外国為替市場における価格形成(円相場、ドル相場等々)は需給関係で説明できるほど単純なものではない。

 膨大な投機的資金が短期の売買を繰り返しているマーケットであり、将来の為替レートの動きを予測させる各国の財政金融政策の節度及びアメリカをはじめとする主要国の市場介入態度が投機筋の判断の大きな要素である。

 安倍・オバマ会談でアメリカが円安傾向にNOを突きつけていたら、現在の相場展開はなかったであろう。


 すなわち、禁じ手の利用と円安水準についてアメリカの容認、追認があったことが現在の円安、株高の背景となっている。

 そしてこのことは、次の2点があることを示唆している。

アメリカの円安許容水準に一定の限度がある、アメリカの容認、追認を獲得するにあたり、(当然安倍・オバマ会談の前にシェルパが交渉しているはずで)、安倍政権は何らかの土産をアメリカに取られている、ということである。


 円安許容水準の限度はどのあたりか?

 いろいろ憶測を呼ぶところであるが、日本の満足は他国の不満であり、95円は大きな成果であるが、先はそう遠くはないと思われ、また相場定着の保証があるわけでもない。

 安倍政権がさらにいかなる対米譲歩をするかに依存するといってもいいだろう。

 要は、先々そう単純な明るい展望が開けているわけではない、ということだ。


 

 以上、浜田教授は先刻御承知のはずのことである。