人間は食べ物ならば何を食べても生きていけます。
 しかし、何をどのように食べるかによって、おのずとその人間の品格が現われ
てくるように思います。
 いちばん低劣なのは、うまくもない食べ物を、世間でうまいといわれていると

か、いい値段がついているとか、有名な店だとかいうことに影響されて、うまい

と本当に思ってしまう食べ方です。

 そういう食べ方になると、舌が狂ってくるのみならず、その狂いが表情・態度

に出てきます。自己の判断能力を失ったうつろな目と世間を気にするおどおど

とした表情と自分こそ主流派だという逆にふてぶてしい態度です。
 世の中、舌が狂ったことによってそのような表情・態度となっているのみなら

ず、他の原因による狂いによって同じ表情・態度で歩いている人がたくさんい

ます。

 うまいとかまずいとか言わずに、食べることは空腹を満たすことであるという

原点に立ち戻ることが、生き生きとした表情、すがすがしい態度を回復する手

っ取り早い道ではないでしょうか。