2002年1月21日

ジョージ・ソロスの「ソロスの資本主義改革論~ オープン・ソサエ
ティを求めて」を読み終えました。

ソロスは、国際的投資ファンドの総帥として莫大な資金の国際間
短期移動により巨大な資産を築いた人物であり、90年代後半のア
ジア経済危機においてはその危機をもたらせた元凶としてマレーシ
ア・マハティール首相に名指しされており、うさんくさい人物であると
考えられがちです。かく言う私もそのようなイメージでソロスを考えて
おり、ソロスの前著「グローバル資本主義の危機」を読んで、その考
えの修正の必要を思い知らされたのでした。

弱肉強食論理でしかない経済社会、国益の衝突でしかない国際関
係というイメージの現実に対し、その現実を踏まえつつ理想主義的方
向付けをしようというソロスの提案は、日本の経済政策、外交政策、
安全保障政策、とりわけ対米政策を考えていく上でも、多くのヒントを
与えてくれるものと評価することができると思います。(非倫理的国際
的投機家というイメージでソロスの主張がかえりみられないとすれば、
誠に残念なことです。)

大著であり、短文でその主張全体を示すことは到底困難ですが、中
核的主張と思われる部分を少し紹介しておきたいと思います。

「 共産主義は、市場メカニズムを廃止し、すべての経済活動に集団
的統制を加えようとした。市場原理主義は、集団的な意思決定を廃
止し、市場価値にすべての政治的及び社会的価値を上回る至高の
地位を与えようとする。だがどちらも間違っている。われわれは人間
の構築物にはすべて欠陥があることを認める必要がある。完璧さは
われわれの手の届かないところにある。われわれは次善の状態で満
足しなければならない。改善への道が開かれている不完全な社会が
それである。グローバル資本主義はいたく改善を必要としているので
ある。」

「 私が主張したいのは、今日広まっているグローバル資本主義シス
テムは歪んだ形のオープンソサエティ(開かれた社会)であるというこ
とだ。このシステムは利益の追求と競争を重視するあまり、協調的な
意思決定によって共通の利益を守ることができない。また、個々の国
家が大きな権力を持ちすぎており、シビリアン・コントロールが及ばな
いこともしばしばだ。人間の誤謬性を十分に自覚し、完璧はありえな
いということを認識して、こうした行きすぎを正していく必要がある。」

「 アメリカに突き付けられている重要な選択は、単独主義と多国間主
義のどちらをとるかということだ。前者をとれば、バランス・オブ・パワ
ー(勢力均衡)の再構築と対立する陣営間の武力対決につながり、後
者をとればグローバル・オープンソサエティへと向うことになる。」

ソロスがこの著作において主としてターゲットとしているのは、現在優
勢を示し、グローバル・オープンソサエティの構築を妨げようとする2つ
の危険な傾向です。
すなわち、それは、共同体と無縁であり、それゆえ社会価値を損ない、
道義的抑制を弱める市場原理主義と、自国益優先の国際的非協調行
動を展開する超大国アメリカの外交政策です。