2002年2月4日
全共闘運動について、その世代の見解を明らかにするようにとの
テーマ・リクエストがありました。
リクエストは、直接的にはリンチ殺人、浅間山荘事件で有名な連合
赤軍についての見解を問うものでした。
しかし、連合赤軍それ自体は、広範な学生の支持のあった全共闘
運動が急速にその支持を失い、孤立化したがゆえの終局の姿であり、
その事件の異常性もあって、全共闘運動を考える上ではむしろ混乱
要素だと思います。
また、全共闘運動は複雑多様な要素を含み、総合的に全体像を明
らかにすることは、私のような者の到底なしうるところではありません。
したがって、ここでは、全共闘運動に広範な学生の支持があった直
接のきっかけは何であったのかということと、その支持はなぜ急速に
しぼんでしまったのかということについてだけ述べたいと思います。
直接のきっかけはベトナム戦争です。
ベトナム戦争は、全共闘世代の小学校、中学校、高校、大学の時
代全般を覆っていました。
そして、今回のアフガニスタン戦争とは全く異なり、ベトナム戦争の
本質が民族独立戦争であり、東南アジアの共産主義化を阻止すると
いうアメリカの大義名分は成立しないことが、戦争の実態が報道され
るにしたがってどんどん明らかになっていきました。
単純に言って、アメリカは当時「悪」でした。
この「悪」に対して、受験競争を余儀なくされ、正義感を封じ込めら
れていた世代の鬱憤が、極めて自由な雰囲気に満ち満ちていた当時
の大学において一挙に爆発したのです。
ベトナム戦争がなければ、全共闘運動はなかったか、全く様相の違
うものになっていたでしょう。
全共闘運動が急速にしぼんでしまった理由は、当時のヒットソング、
小坂明子の「あなた」、少し時代は遅れますが荒井由美作詞作曲の「
『いちご白書』をもう一度」が象徴しています。
運動に火を付けたマッチはベトナム戦争でしたが、火を付けられた薪
は人間性を抑圧する管理社会に対する反発という世代共有の心情でし
た。
そして、全共闘世代は、いよいよ社会に出るにあたって、「反管理社
会」を貫き「豊かな生活」を捨てるか、「管理社会」の重圧を耐え「アメリ
カン・ウエイ・オブ・ライフ」という「豊かな生活」を目指すのかの選択を迫
られたのです。
選択を決定したのは、小さな「豊かさ」を幸福として「あなた、あなた」と
訴える異性の声でした。「ビバリー・ヒルズ」を求めるものではありません
でしたが、「一戸建て」は必要でした。大多数の学生はその声に抗し得な
かったのです。
全共闘運動は機動隊に敗北したのではなく、「アメリカン・ウエイ・オブ・
ライフ」とその小さな女神に敗北したのです。
情況は一変していますが、現在においても日本のみならず全世界で「
アメリカン・ウエイ・オブ・ライフ」が社会の在り方を決定する基本的選択
軸であることは変わっていません。