2002年2月6日

同和問題、すなわち被差別部落問題については、徳川時代の
封建的身分制がそれを制度化し、固定化し、差別意識を強化した
ことにほぼ異論はないものの、その起源については諸説あり、諸
起源があるというのが正解のように思われます。
しかし、諸起源のうち最も根源的なものは何か、そもそもの発端
はどこにあるのかということについては、網野善彦著「異形の王権」
が明らかにしているところが正しいのではないかと考えています。ま
た、この本によって天皇権力の根拠、武士政権下におけるその不
思議な継続の理由も明らかにされているような気がします。

「異形の王権」とされているのは、鎌倉時代と室町時代にはさまれ
「南北朝時代」とか「建武の中興」として日本史で習う時代に登場する
後醍醐天皇のことです。(話とは関係ありませんが「醍醐」とはチーズ
のことであり、「醍醐味」とはチーズの味ほどおいしいということです。)

聖徳太子の時代から平安時代まで日本は天皇を頂点とする仏教
(もちろん極めて日本的に変質した仏教です。)による宗教国家であ
ったというのが網野説の核心です。

我々にとって宗教国家というものは極めて想像しにくいのですが、
教祖=天皇の権威のもとでその権威の分与を受けて支配者側の立
場で生きていく周辺の人々が当然いました。
しかし、平安時代から鎌倉時代にかけて、経済の発展とともに社
会が世俗化し、わかりやすく言えば経済の発展により物質的豊かさ、
「お金」が大事になって、宗教的権威はその力を失っていきました。
(天皇専制から貴族制へ、さらに武士政権へ)
その過程で権威の分与を受けていた人々の社会的地位が急速に
低下し、それまで支配者側に立っていただけに逆にきびしく差別され
るようになってしまった(最近の外交官も危ない)、というのが網野説な
のです。
そして、武士政権に対して宗教的権威に基づく天皇専制を復活しよ
うとクーデターを企てたのが後醍醐天皇であったと網野は説くわけで
す。

深刻な問題をこのように説明するのははばかられますが、敢えてわ
かりやすく言えば、「おれたちは神様の子分だい」と威張っていたのが、
「あんなの神様じゃないやい」ということになって、反対にいじめられる
ようになってしまった人々、親亀(天皇)がこけたのでいっしょにこけてし
まった子亀が、被差別民だというのです。