2002年2月8日

アメリカン・ドリームとは、象徴的に言えば、ロサンゼルス近郊の高
級住宅地ビバリーヒルズに広大な邸宅を構え、そこで豊かな生活を送
ることである。
大きな門を入って緑豊かな林の間を抜けると小高い丘の上にその
邸宅は建っている。邸宅にはいくつもの客室があり、こぎれいな調度
が整っている。よく管理された芝生の庭には20メートルくらいのプール
がある。週末にはそこに知合いを集めてパーティーを開き、おしゃべり
をし、飲み、歌い、踊る。日本のゴルフ場のクラブハウスを私邸として生
活するようなイメージである。
アメリカでは、この夢がかなえられるチャンスがすべての人に開かれ
ている。努力すれば、そんな豪華な生活を送ることができる。結果がそ
うはならなくても、少なくともチャンスは平等に与えられている。チャンス
をつかむために自由に競争しなさい、アメリカはそれを妨げるようなこと
はしない。人種、民族、宗教、性によって差別はしない。
これがアメリカという国家を支えている理念であり、この理念によって
アメリカという国は統一を保っている。
だから、丸太小屋からの大統領、ニューヨークの貧民街からの国務
長官、貧しい移民からの大富豪などが、理念の具現化として大事にさ
れる。理念のリアリティを示すために大いに宣伝される。一方、競争に
敗れた人々は、努力不足のゆえと説明されて自己否定の感情にさい
なまれながら貧民街に吹きだまる。
そして、この理念が幻想でしかなく、うそっぱちでしかないと人々に感
じられたとき、しばしばそれは都市暴動として爆発し、静かなる人々は
ドラッグの世界に身を沈める。
リアリティに欠けた理念は、社会に不健全性をもたらさざるをえない。

高知県山間部の某町に招かれて講演をしたとき、私は次のように語った。

「 ところでみなさん、ここの町では20メートルのプールなんかわざわざ
自分の家に作らなくても、きれいな泳げる川がいくらでもあるではない
ですか。この町全体がすばらしい緑におおわれているではないですか。
四季折々のお祭りやイベントがあって、その準備の段階からみんなが
集まって楽しく飲んだり騒いだりしているではないですか。
アメリカン・ドリームはすでにこの町では実現しているとも考えられる
のではないですか。
アメリカン・ドリームと違うのは、アメリカン・ドリームではすべてが個人
の私有財産であるのに対し、この町では地域の事実上の共有財産が
基礎となっているということです。
アメリカの夢であり、都会人の夢でしかないものをこの町が夢として
しまうような間違いをしてはなりません。」

講演後、町長が喜んで私に言ってくれた。

「 PTAから川は危ないから小学校にプールを作るようにと要求されて困
っていた。今の話を参考にPTAと話 し合いたい。」

問題はこのようにひとつひとつ具体的に解決していかなければならない。
そして、その際、ある意見はどんな理念に立っているのか、別の意見は
どんな理念に立っているのか、そして自分自身の持っている理念は地域
に根差した確固たる基盤を持っているのか、それらをよく見極めなければ
ならない。