2002年5月9日

上野千鶴子が「サヨナラ、学校化社会」(太郎次郎社)という本を出し
ました。
これまでの上野の著作は一般向けとしては難解と言わざるをえなか
ったのですが、 今回の本は今までとは違って読みやすく書かれていま
す。この本によって上野がより多くの人に知られ、その主張、その問題
提起が多くの人に共有されるであろうことを私はとても喜んでいます。

「サヨナラ、学校化社会」は告発の書です。
いかなる意味で告発の書であるのか?私なりの言葉で述べてみまし
ょう。

人間は神となることを希求する存在という側面を持っています。絶対

不可能ではあるこの到達点を基準にして、 現代社会が作り出している

人間を評価することができます。 逆に言えば、作り出されている人間

によって現代社会を評価することができます。
頂上には到達できないものの、頂上に何歩近づいているか、という
観点で社会や人間を見ることができると考えられます。我々は、聖人
聖者とされるような人から極悪非道の悪人まで、同じ人間でもその中
に大きな幅があることを知っています。

そう考えた時に、現代日本はどのような人間を作り出しているのでし
ょうか。

いじめられぬいて、それゆえにさらにいじめられることを恐怖し、しっ
ぽを巻いて後ずさりしながら、低いうなり声をあげ、よだれにまみれたそ
の牙で見境なく近づく者に噛みついてしまう野良犬、これが現代日本が
作り出している人間という名の人間の姿でしょう。 (上野はここまでは言
っていません。)

「サヨナラ、学校化社会」で上野は、現代日本のどのような社会の論理
がこのような人間を作り出しているのか、を解き明かしています。

子供たちを見る時、私はどうしようもない、いたたまれない気持ちにさ
せられます。
大きな可能性があるのに、頂上に一歩でも二歩でも近づける可能性が
あるのに、かわいそうに彼らはそのチャンスから排除されているではない
か!
戦場の、貧困の世界の子供たちのみならず、豊かな生活を享受してい
るかに見える日本の子供たちを見て、そういう気持ちにさせられます。

現代日本における教育の問題は、学校週休2日制による「学力低下」
どころの話ではありません。 円周率は3でも4でもいいのです。 大人た
ちが子供たちを恐怖におののく野獣としてしまっていることこそ、問題中
の問題なのです。