2002年9月9日
NHK教育テレビ「人間講座」で「武士道の思想」という講座が現在開か
れています。(毎週水曜、午後11時、今月まで)
この講座で講師・笠谷和比古国際文化研究センター教授が明らかに
しようとしているのは「武士道の根本規範は、滅私奉公・絶対服従では
なく、自立の精神を完成し、組織の繁栄を追求するものであった。」とい
うことです。
笠谷教授の説明から自然に一つの疑問が起きてきます。
すなわち、主君個人への忠義以上に組織(「藩」あるいは「お家」)を大
事にするというのが武士道の根本として、この組織大事ともう一つの根
本とされている自立の精神の完成との間に当然生じてくるはずの矛盾
を武士道ではどのように解決していたのかという疑問です。自己の理念
と組織の理念が対立する場合、武士道ではいかに対処することとされて
いたのかという疑問です。
まだ講座は途中ですが、私の推定は次のとおりです。
武士道ではこの問題は取り扱われていない。なぜなら、武士道では、意
識的にしろ無意識的にしろ、自立の精神を支えるものこそ組織であり、組
織なかりせば自立とは単に私的なものに堕してしまうと考えられていたか
らである。自己と組織は相反するものではなく、組織あってこそ自己の理
念=行動規範は成立するものと考えられていたからである。
武士道書として最も有名な「葉隠」を愛読していた三島由紀夫は、最後
は自己の「美」を支えるものとして「国」あるいは「天皇」を利用して……た
ぶん、信じてではなく……割腹自殺しました。
武士道の枠組み(私の推定上の)で考えるなら、自立の精神を支えるも
のとして、「主君」「お家」「藩」「国」「天皇」全部がダメというのが現代日本
です。