2002年12月9日

 アイゼンハワー・アメリカ大統領の時代のことです。1950年代ということ
になるでしょうか。自動車会社フォードがイタリアの自動車会社フィアットへ
の投資(買収目的だったか?)を計画し、これに対しドル防衛(ドルの価値
の維持)のためにアイゼンハワー大統領がフォードに投資計画中止を要請
したことがありました。そして、たしかフォードは大統領の要請を蹴ってフィ
アットへの投資を強行したのです。
 多国籍企業の利害と国民国家政府が代表する一国の利害が対立した「
はしり」の象徴的経済事件でした。

 現在では先進各国とも国内に多国籍企業を有し、国民国家政府と多国
籍企業の利害相反は一般化しています。
 ところで、多国籍企業はその利害を代表するグローバルな中央政府を
持たず、その利害を政策に反映させるためには、利害相反をはらんでい
る国民国家政府を通じるほかありません。
 したがって、国民国家政府は、ある時はそれを国益と見なして多国籍企
業の利益を図る政策を採用し、ある時はそれを国益に反するものとして多
国籍企業の利益に反する政策を採用することになります。

 このような事情にもかかわらず、国際政治を国民国家間の関係のみとす
る見方(ドメスティックな国益とドメスティックな国益との対立とする見方)が
依然として支配的であり、そのような説明がなされるため、しばしば国民国
家政府の行動、国際政治の動きがわかりにくくなっているのです。

 グローバリゼーション・ユダヤ陰謀説などは、このわかりにくさを平易に理
解したいという要求に対応して登場する謬論です。