2004年2月15日

 2月14日(土)、東京競馬場、午後4時過ぎ。春めいた競馬日和の
1日も最終第12レースを残すのみとなり、スタンドの喧騒はまだ続い
ているものの、装鞍所からパドックに通じる長い地下馬道では人馬の
行き来も途絶えつつあり、流れ込んでくる外気もひんやりとしてきてい
ました。

 宴の後の寂しさの漂うそんな地下馬道で、フードですっぽり頭を覆い、
ひとり黙々とジョギングに励んでいる男に出会いました。

 引退をささやかれながらも1年数ヶ月ぶりに現役復帰を果たし、この
日も6レースに騎乗して2勝を上げた関東の人気騎手岡部幸雄、その
年55歳。
 ファンからの声援、拍手喝さい、マスコミの取材攻勢、華やかな現役
復帰の舞台の後、人々からひとり離れて、肉体の衰えを何とかカバー
しようとトレーニングする修道僧のごとき彼の姿には鬼気迫るものがあ
りました。

 55歳【当時】にして、自分の仕事はこれしかない、この仕事にくらいついてい
くほかはないと決断し、再び走り始めた中年男の凄味でした。