2004年6月30日
小津安二郎の映画に多数出演している坂本武という俳優がいました。
5月16日(日)【2004年】の日本経済新聞の記事を引用すれば次のと
おりです。
「 初期の小津作品には『出来ごころ』(33年)『東京の宿』(35年)など、
主に下町の長屋を舞台にした『喜八もの』と呼ばれる人情話がある。主
人公は坂本武演じる『喜八』。親分肌で気前がいいが、ちょいと不器用
で、美人を見ると年がいもなく実らぬ恋をする。そんな喜八を見守るの
が飯田蝶子演じる『かあやん』。口は悪いが、心根は優しい。」
寅さんの原型のようなこの坂本武は、少なくとも昭和30年代前半、我
が生家近く(大田区西蒲田4丁目、当時女塚2丁目)に住んでいました。
その地域は京浜工業地帯の中の住商工混合地域で、およそ映画俳優
が住む雰囲気の町ではありません。比較的近距離にあった松竹蒲田撮
影所は当時すでに廃止されていましたが、そもそもはその関係でこの町
に住みついたのかもしれません。
省線(現JR)蒲田駅(小津映画『早春』(池部良、淡島千景、岸恵子出
演)にいくつかのシーン)からほぼ線路に平行して北上し女塚の銭湯「辰
巳湯」に至る道(現工学院通り)でひとりぶらりと歩いている坂本武を何
回か見かけました。
「あの人は映画俳優だ」と教えられても、小津映画なんて知らなかった
こともあり、何の感興も湧かない、その町のどこにでもいる普通のおじさ
んでした。