2004年7月11日
刑法199条に「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは3年以上の
懲役に処する。」と定められています。「人を殺してはならない。」とい
う禁止規定は何処にもありません。
これについて2つの解釈が可能です。
1つは、殺人は、法律に定められるまでもなく禁止されていることだ
から、わざわざ法律に禁止規定が置かれないのだという解釈です。
もう1つは、「死刑又は無期若しくは3年以上の懲役」を覚悟するの
であれば、そういうやむにやまれぬ殺人は法律上許されているという
解釈です。
いろいろな法律の罰則を見てみますと、「‥‥をしてはならない。」と
いう禁止規定があって、その禁止規定に違反した場合にはかくかくし
かじかの罰に処すると規定されているものと、刑法と同様に禁止規定
はなく、直接的に「‥‥をした者は‥‥に処する。」と規定されている
ものがあります。
同じ法律の中に2つの規定が混在しているものがあり、その場合に
は、規定を置くまでもなく禁止されていることについては、あえて禁止
規定を置く必要はないと整理されていると考えられます。
しかし、例えば労働基準法5条には「使用者は、暴行、脅迫、監禁そ
の他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の
意思に反して労働を強制してはならない。」という禁止規定があり、そ
れは法律に定められるまでもなく禁止されていることだと思いますが、
この禁止規定を受けて117条に「第5条に規定に違反した者は、これ
を1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金
に処する。」と、刑法型ではない規定振りとなっています。
法律に定められるまでもなく禁止されていることはあえて法律に禁止
規定を置かないということで、すべての法律が一貫しているわけでもな
いようです。
実際にこんなことを考えて殺人を決める人はいないと思いますが、国
の意思を示す法律がどのような意思を表明しているのかは、あいまい
のまま放置しておくことはできないことだと思います。