2004年9月23日

 「社会病理現象」という言葉があります。個人個人の病気ではなく、
社会全体の精神的雰囲気が不健康であり、病んでいる結果として発
生する好ましくない社会現象を指す言葉です。

 この場合、「不健康」とか「病んでいる」とかの基準は絶対的なもので
なく、歴史的なものであること、すなわち時代とともに変化するものであ
ることを認識しておくことが大切です。(ミッシェル・フーコー「性の歴史」
が明らかにしているように、性的タブーについてそのことは顕著である
と思われます。)

 さて、そのことはさておき、人類がヒト族ヒト科の動物であることからく
る、その動物としての特徴からの精神的な健康さというものがあるよう
に思われます。
 その特徴とは、群れをつくって生活するということです。
 かつて人類はまさに生存のために群れをつくっていました。その結果、
人類は共通の目的(かつては生存そのもの)を持って協働し、群れの中
での評価を感じることに精神的安定を得る動物となりました。

 現代はその群れの規模が巨大化し、人々が帰属感を持つ群れは、そ
の中の小さな群れ(例えば学校、会社、地域組織など)となり、その小さ
な群れの共通の目的はストレートな生存そのものではなくなってしまいま
した。
 このため、共通の目的を持って協働し、群れの中での評価を感じると
いうことが単純に成立しなくなってしまいました。
 「社会病理現象」といわれるものの根本的原因はここにあると思われ
ます。

 現代においても人類が精神的安定を得るための基本的条件に変わり
があるとは思えません。(遠い将来に群れをつくらないトラやクマのよう
にひとりになっても孤独感もなく、精神的安定を得られる人類が出てくる
かもしれませんが‥‥)
 このため、当面、ストレートな生存以外で自分が共感できる共通目的
を持つ群れをひとりひとりが探し出して、その群れに参加するという一苦
労を人類は避けることができません。
 (その簡便な選択として民族、国家、宗教といった観念上の群れが選
ばれる場合があるように思われます。)